「あれ? いま何しようとしてたんだっけ?」「ほら、あの人、名前なんていうんだっけ?」「昨日の晩ごはん、何食べんたんだっけ?」……若い頃は気にならなかったのに、いつの頃からか、もの忘れが激しくなってきた。「ちょっと忘れた」というレベルではなく、40代以降ともなれば「しょっちゅう忘れてしまう」「名前が出てこない」のが、もう当たり前。それもこれも「年をとったせいだ」と思うかもしれない。けれど、ちょっと待った! それは、まったくの勘違いかもしれない……。
そこで参考にしたいのが、認知症患者と向き合ってきた医師・松原英多氏の著書『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』(ダイヤモンド社)だ。
本書は、若い人はもちろん高齢者でも、「これならできそう」「続けられそう」と思えて、何歳からでも脳が若返る秘訣を明かした1冊。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、脳の衰えを感じている人が陥りがちな勘違いと長生きしても脳が老けない方法を解き明かす。

【91歳の医師が明かす】40代から認知症リスクが増大…決定的にマズい状態にある事実イラスト:chichols

難聴で認知症リスクが高まる

「話しかけても、お父さんが最近返事をしてくれない。認知症じゃないでしょうか?」という相談を受けて医者が患者さんの耳を調べたら、耳の穴がアカでほぼふさがった状態だった。そんな笑い話もあります。

耳アカで聞こえにくいだけなら、耳の掃除をすればいいだけです。しかし、加齢などによる難聴(聴力低下)があるなら、早めに対策を施したほうがいいです。老眼になって近くが見えにくくなったら、老眼鏡をかけるのをためらわないのに、耳が遠くなっても、見た目を気にして補聴器を使うのをためらう人は少なくないです。

近年は目立ちにくい補聴器もありますから、必要なら使用することをおすすめします。なぜなら、耳が遠くなると会話のやりとりがしにくくなり、脳に加わる刺激が低下するからです。

難聴で認知症リスクが1.9倍に

相手の声が聞こえにくくて何度も聞き返すのは、本人にとってもイヤなことですし、話すほうも耳が遠い人に大きな声で何度も話すのをおっくうに感じることもあるでしょう。会話がうまくできなくなると、人との接触を避けるようになり、社会的な活動へ参加する意欲が低下するという悪影響も考えられます。

こうしたことが積み重なると、認知症リスクを高めることにつながるのです。海外の報告では、45~65歳の中年期に難聴があると、65歳以上の高齢期に認知症になるリスクが1.9倍になるそうです(Livingston G,et al.Lancet.2017)。

高音域から聞きとりにくくなる

加齢以外に特別な理由がない、老化にともなう難聴を「加齢性難聴」といいます。加齢性難聴は、耳の奥にある「内耳(ないじ)」と呼ばれる部分で、音の振動を電気信号に変えて脳に伝える「有毛(ゆうもう)細胞」がなんらかのダメージを受けた結果、その数が減ったり、有毛細胞に生えていて音の振動を感じる「聴毛(ちょうもう)」(感覚毛)が抜け落ちたりすることで生じます。

この他、音の信号を伝える神経や、音を認識する脳に問題があることもあります。加齢にともなう難聴は40代から始まり、高音域から徐々に聞きとりにくくなることが多いです。それ以降も、ほぼすべての音域で聴力レベルは、右肩下がりになります。

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会によると、日本人の65~74歳では3人に1人、75歳以上ではおよそ半数が難聴に悩んでいるそうです。難聴による認知症リスクを下げるには、健康診断などで定期的な聴力検査を受け、必要に応じてためらわずに補聴器を使うようにすることです。幸い私は、いまでも補聴器に頼らず、診察も日常生活も支障がありません。

大音量で落ちた聴力は
自然には回復しない

合わせて加齢性難聴を加速させない生活習慣も求められます。もっとも確実な難聴対策は、テレビや音楽を大きな音で聴かないこと。音量は、必要最低限に絞って楽しんでください。

有毛細胞の表面に生えている聴毛は、とても繊細で、大音量にさらされると、傷ついたり抜け落ちたりします。一度失われたら有毛細胞も聴毛も二度と再生しないので、大音量で落ちた聴力が、自然に回復することはありません。

世界の若者の半数が
難聴リスクを抱える

若い世代には、イヤホンやヘッドホンを耳につけっ放しにして、スマホやポータブルプレーヤーで音楽を聴いたり、ゲームをしたりする人が増えています。WHO(世界保健機関)は、音楽を大音量で聴き続けたり、クラブやライブ会場などで大音量にさらされる生活を続けたりすることにより、世界の12~35歳の若者のおよそ半数にあたる約11億人が、難聴リスクにさらされていると警告しています。

多くの若い世代にとって、認知症は縁遠い話かもしれません。しかし、若いうちに難聴になり、適切な処置を怠っていると、将来の認知症リスクは高まるのです。

※本稿は、『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』より一部を抜粋・編集したものです。(文・監修/松原英多)