リスク分散のため脱中国を急ぐ企業の急増

 ここにきて、生産拠点を中国から他のアジア新興国などに分散する企業が増えている。わが国のアパレル業界では脱中国が一段と鮮明だ。象徴的な企業に、ビジネススーツなどを手掛ける青山商事がある。2014年からインドネシアで生産を開始した同社は、今後も対中依存を低下させる方針だ。

 なお、財務省の貿易統計で2017年と2021年を比較すると、わが国の「スーツの輸入」は、中国からの割合が47%から41%に低下している。一方、ベトナムからは10%から11%、インドネシアからは12%から15%に増加している。

 脱中国の動きは、アパレル以外にも広がる。空調大手のダイキンは、中国からの原材料調達に頼らずフッ化水素酸を生産する技術を生み出した。同社は中国製の部品が調達できなくてもエアコンを生産する体制も構築している。

 海外企業も生産拠点の脱中国を進めている。象徴的な企業は、米国のアップルだ。アップルは、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下のフォックスコンが河南省鄭州市で運営する工場にてiPhoneやiPadを生産してきたが、近年インドやベトナムにシフトしている。また、米ナイキはスニーカーの生産を中国からベトナムやインドネシアなどに移管している。

 このように、つい最近まで「世界の工場」としての地位にあった中国の存在感が、急速に低下している。1978年に始まった「改革開放」以降、中国は経済特区を設けて海外企業を誘致し、効率性の高い、あるいは先端分野の生産技術の移転に取り組んだ。加えて、農村部から沿海部の工業地帯へ、安価かつ豊富な労働力が供給された。それらが、中国への直接投資の増加を支えていた。

 また、共産党政権は国有企業などに低コストで土地を供給し、急速にサプライチェーンも整備した。こうして世界の企業は最もコストが低い場所でモノを生産し、世界全体の需要動向に応じて迅速に供給する体制を確立できた。一時は、「世界にデフレを輸出している」といわれたほど、中国の輸出競争力は強かった。