キャリア展望を促すための有効なアプローチは?

 では、従業員がキャリア展望を持つようにするために、企業経営者や人事部はどのようなアプローチを行えばよいのだろうか。伊達さんは、重要なことが3つあると語る。

伊達 1つ目は、個人のキャリアに対する会社側の支援が従業員に認識できる状態にすることです。「キャリアやスキルアップに対して、会社が自分をサポートしてくれている」と感じられているほど、従業員のキャリア展望はひらけていきます。制度をただ構築するだけでなく、従業員自身が「支援をされている」と実感できるかどうかがポイントです。

 2つ目は、昇進の手続きが公正だと従業員が思うことです。公正だと思えない場合は、自分がこの先どういうふうにキャリアを歩んでいくかがわからずに、会社に所属し続けることに不安を抱きます。

 3つ目は、上司やメンターからの直接的な働きかけです。上司と部下の関係性がよいと、キャリア展望が高まることが検証されています。たとえば、新しい仕事にチャレンジさせてもらえたり、上司から頻繁に助言を受けたりすると、部下は自分のキャリアに対して期待を持つようになっていきます。具体的には、社内での成長を促す「職業的支援」、自己を確立させるための「心理的支援」、手本となる「ロールモデリング」が有効と言われています。

 どの施策においても、「仕組みを整えること」だけではなく、“従業員が実感すること”が重要だと言えるだろう。社内での成長を促す「職業的支援」、自己を確立させるための「心理的支援」、手本となる「ロールモデリング」のうち、特に重要度が高いのはどれだろう?

伊達 「ロールモデリング」ではないでしょうか。従業員にとって、自分の将来をイメージするのは簡単なことではありません。社内に目標となる存在がいることで、未来の自分の姿をイメージするヒントを得られるのです。ロールモデルを観察しながら、将来のイメージを少しずつ持つことができるようになると、キャリア展望は自ずと開けていきます。人事部は、メンタリングなどの制度設計だけではなく、上司と部下、先輩と後輩の中で良質な人間関係を構築できる働きかけをしていくことが望ましいと言えます。

 個々人のキャリア展望は、結婚や出産といったライフイベントや育児・介護などのライフステージの変化にも大きな影響を受けるはずだ。プライベートとキャリア展望の関係性について、伊達さんはこう語る。

伊達 キャリア展望を持つためには、家族からの支援も重要となります。キャリア展望には“ライフキャリア”も深く関係していきます。「職業的支援」「心理的支援」「ロールモデリング」などで会社側が「キャリア展望」の支援をしたとしても、家庭を持つ従業員の場合、家族からの支援がない状態では、自分が望むキャリア展望を描くのは難しいでしょう。各家庭の内情に会社が深く介入することはできませんし、控えるべきですが、従業員のキャリア展望にはプライベートの事情も関係してくることを、会社側は理解しておくべきです。