キャリア展望が“個人主義”に至る危険性もある?

 では、従業員がキャリア展望を持つことのデメリットはないのだろうか。たとえば、会社がキャリア開発を支援することで、社内におけるキャリア展望を持つのではなく、独立や転職の道を選ぶ従業員も出てくると考えられるが……。

伊達  2つのことが考えられるでしょう。1つはキャリア開発の過程で、社外のこともたくさん知り、「自分は他の職場でも活躍できるのではないか?」という考えに至るパターンです。結果、転職したり、独立したりするケースもあるでしょう。もう1つは、自分に対してリソースを投じてくれた会社に感謝し、返報性の原理が働いて会社への忠誠心を強めるケースです。多くの研究を俯瞰した論文によれば、この2つのうち、後者のほうが高い傾向にあることが分かっています。

 たしかに、会社からのサポートを得れば得るほど、会社に報いたいという気持ちは高まるだろう。むしろ、何のサポートもないほうが、「このまま、この会社にい続けて大丈夫かな……」「あまり期待されてもいないようだし、別の職場を考えようかな……」といった気持ちを生むかもしれない。

伊達 ひとつ注意しなければいけないのは、キャリア展望を高めていくと、場合によっては、「自分さえよければよい」という個人主義的な振る舞いにつながる可能性もあることです。たとえば、社内で出世していこうという意欲が高いばかりに、部下に対して知識を隠したり、支援を求められても手を貸すのをためらったりする人もいるでしょう。昇進というキャリア展望を優先して、打算的な行動を取ってしまう危険性もあるのです。

 そうしたキャリア展望の“副作用”を抑制していくにはどのような対策が効果的なのだろうか。

伊達 組織の中で個人主義に陥らないような仕組みづくりが重要になります。一人ひとりの従業員が自律的に仕事をしていくことは大切ですが、それと同時に、たとえば、会社側には共通目標を設定したり、相互依存性の高い仕事をアサインしたりするといった対策が求められます。「自分さえよければいい」という姿勢ではなく、みんなで協力し合いながら目標を達成していく体験が、キャリア展望のプラスの効果を高めるためには重要なのです。