従業員の“キャリア展望”を高めるために、会社は何をすれば良いか

「従業員にキャリアの展望がない」という声をさまざまな会社で耳にする。「役職につきたくない」「出世したくない」といった若手従業員の意向も気になるところだろう。どうしたら、従業員が社内でのキャリアの目標を描いていくことができるのだろうか。今回は、株式会社ビジネスリサーチラボの代表で、『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)の著者である伊達洋駆さんに、従業員が仕事への意欲とともに“キャリア展望”を高めていくための人事のアプローチや注意点について聞いた。(構成・文/佐藤智 レゾンクリエイト、撮影/菅沢健治)

自分のキャリアを描けず、その展望を持っていない

 多くの企業経営者や人事担当者には「従業員が、自分のキャリアの展望を描けていない」という悩みがある。近年、「キャリア自律」といった言葉もよく耳にするが、そもそも、いつ頃から、「個人のキャリア」が組織の中で重要視されるようになってきたのだろうか。ビジネスリサーチラボの伊達洋駆さんは、その背景をこう振り返る。

伊達 仕事において「自分で自分のキャリアを形成していく」といった発想が日本の中で本格的に登場したのは、1990年代です。それまでは、一つの会社に就職し、所属し続けていれば、仕事人生はある程度安泰で、自分自身が舵を取っていく必要はあまりありませんでした。しかし、予測が難しい未来に向かうにつれて、自分で自分の仕事の未来を考えていくことが求められるようになっていきました。

“キャリア展望”とは、「所属する会社や組織の中で、自分の将来の在り方や仕事の未来を描く」ことだ。具体的には、昇進希望の有無や「○○の仕事をして、自分の力をつけたい」といった働き方の目標やプランを持つことを意味する。それが実現できている状態を「キャリア展望がひらけている」という。キャリア展望は、個人が組織内で働いていくために重要なものだが、それをしっかり持つことができている従業員はそう多くないようだ。

伊達 人事担当者を対象に、「キャリア研修の対象者がどのような課題を抱えているか?」を聞いた、ある民間調査では、「各人のキャリアの展望の明確化」「能力開発の必要性の認識」「自己のキャリアの強み・弱みの確認」が上位に挙げられており、キャリア展望を持つことができている従業員はそう多くはない状況が垣間見えます。「5年後・10年後に実現したい仕事やキャリアへの希望はあるか」という質問に対して、半数以上の人が「ない」と回答してもいます。また、「(従業員が)キャリア展望を描けないことの理由」を尋ねた別の調査では、「取り組もうとする気持ちの余裕がない」「時間的な余裕がない」「具体的な方法がわからない」といった回答が見られました。

 仕事において、自分のキャリアの見通しが持てなかったり、将来のことを考える余裕がなかったりする状況では、前向きに働いていくことは難しいように思える。

伊達 キャリア展望を持てている従業員は、「私は、この会社で成長していけるだろう」と、職場に対して、ポジティブで前向きな姿勢を持てます。また、自分の所属している会社への満足度が高い傾向もあります。キャリア展望が高まると仕事へのストレスが減り、総じてネガティブな感情を抱きにくくなることもさまざまな調査からわかっています。つまり、会社でいきいきと楽しく働くには、キャリア展望を持つことがとても重要なのです。

伊達洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役

伊達洋駆 (だて ようく)

株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役

神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。修士(経営学)。同研究科在籍中、2009年にLLPビジネスリサーチラボを、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。著書に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『オンライン採用:新時代と自社にフィットした人材の求め方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(日本能率協会マネジメントセンター/共著)などがある。