キャリア展望は従業員の誰もが持つべきものか?

 会社側の適切なアプローチが従業員のキャリア展望に有効なことは理解できた。しかし、会社がさまざまな働きかけをしても、キャリア展望を持てない従業員もいるのではないか?

伊達 これは私個人の考えですが、全員が職業人生のあらゆる段階でキャリア展望を明確に持たなくてもよいのではないかと思います。もちろん、キャリア展望を持つと仕事への満足感が高まるといったメリットがあるので、持つにこしたことはありません。しかし、全従業員が常にキャリア展望を持つことが難しいのも事実です。たとえば、20代の時には仕事の目標を描くことができなかったとしても、30代・40代になって「○○になりたい」と気づくこともあるでしょう。逆に、20代で無理に掲げたキャリア展望に凖じ、それに付随する仕事ばかりを追い求めていくことが、その人の可能性を狭めてしまうこともあるでしょう。キャリア展望を持つタイミングは人によって異なり、しかも、個人の中でキャリア展望は変容していくものなのです。

 そのときどきの考え方や環境などに応じて、個人のキャリア展望は変わっていくのだろう。「これだ!」と思う仕事の目標に出合うまでに時間がかかったり、目標が変わっていったりすることは当たり前だ。

伊達 みんながそれぞれの目標から逆算しながら仕事をしていくわけではありません。キャリア展望を持つことを強制する必要はないと思います。とはいえ、キャリア展望を持つ人がほとんどいないような組織は持続しにくいので、一定数の従業員がキャリア展望を持つための支援を経営者や人事部は続けていくべきだと言えるでしょう。

*当インタビューは、書籍『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』の「Part4・育成と自律性にまつわる処方箋/将来への期待や意欲を高めたい」をもとに、伊達さんに改めて語っていただいたものです。