日本には四季があります。四季をさらに六つに分けたものが「二十四節気」です。先人たちは二十四の季節を味わい楽しむことで、豊かな暮らしを育んできました。今、このような日本古来の生活様式が再評価されつつあります。季節の流れに合わせて生活し食を摂ることが、心と体の最高の養生法なのです。この二十四の各季節の過ごし方をていねいに紹介し、話題になっている本が『二十四節気に合わせ心と体を美しく整える』です。
同書のなかより今回は「啓蟄(けいちつ)」における養生法を紹介します。「啓」は開くという意味を持ち、「蟄」は虫などが土中に隠れて閉じこもる状態を示します。つまり「啓蟄」は、冬籠もりの虫が這い出す、という意味になります。生き物が活動を始めるこの時期は活動力が上がる反面、精神的に不安定になりがちです。体と心のバランスが、うまく保てなくなってしまうのです。心の安定はすべての健康の源です。では、今日からすぐに始められる「啓蟄」の過ごし方――何を心がけ、どのように行動し、何を食べれば良いかについてお教えしましょう。

二十四節気の「啓蟄」の時期を健やかに過ごすためにPhoto: Adobe Stock

「啓蟄」とはどんな時期?

 冬ごもりしていた虫が春の暖かさを感じて地中から這い出し始める「啓蟄」。現代の暦では3月6日頃にあたります。

 中国では漢の景帝(紀元前188~141)の実名が「啓」であったため、その時期は文字を「驚」に替えて「驚蟄」と記されていたそうです。唐の時代になると「啓」が復活して、現在の「啓蟄」が定着しました。

 ひと雨ごとに春の気配が訪れ、物事が一段と活動的になる時期です。桃の花が咲き始め、桃の節句などの華やかな行事も行われます。

「啓蟄」では冷えに注意!

 虫も動き出す啓蟄の時期から花粉症も始まります。花粉症がピークを迎える前のこの時期に、いかに養生するかが重要となります。すべては前の季節の過ごし方で決まってくるのです。まだ冷えるこの時期は滋養強壮の食事を心がけ、ゆっくり寝て体力を温存しましょう。そうしてまずは免疫力をアップさせるのです。

 暖かくなってきたら、酸味のある食べ物や肝臓強化に効くシジミや椎茸などを食べ、便秘しないようにデトックスしましょう。運動によって積極的に汗をかくことで、水分代謝を高めることも有効です。

 花粉症の鼻水には、腰や肩甲骨のあいだに使い捨てカイロなどを貼って温めるのが効果的です。透明な鼻水は冷えが原因です。生姜湯や温かいスープなどを摂るとよいでしょう。

 春の病は冬の不養生が原因なので、体調が優れない場合には、まず冷えを解消する必要があります。目のかゆみは、清熱作用がある菊の花のお茶などを飲むとよいでしょう。

 心と体を整えるにはアロマを用いるのも効果があります。ティートリー・ユーカリなどの抗菌作用の成分を含んだものがよいでしょう。マスクに染み込ませたり、ティッシュにたらすのも効果的です。

乱れやすいメンタルをいかに整えるか

 啓蟄は自律神経が乱れやすく、情緒不安定から気分もふさぎがちになる時期です。予防するには呼吸法が非常に効果的です。特に朝の太陽を見ながらの深呼吸が、春の季節には最も効果的です。大きく息を吸い、強く鼻息をたてながら吐くことで脳を目覚めさせましょう。

 手の親指と人差し指のあいだの水かきの部分は「合谷(ごうこく)」といって万能のつぼです。精神的に落ち着かない場合は、合谷を強めに押すことで気持ちが安定してきます。

 啓蟄はストレスが溜まりやすい時期です。あなたの爪を見てください。爪の横波はストレスを表しています。円形脱毛症を生じるような激しいストレスの場合は、針で刺したような小さな穴が無数にあきます。ストレス改善には、食事や起床時間などの小さな生活習慣から変えてみましょう。ストレスが改善されれば爪の横波は小指側から治ってくるはずです。大らかな気持ちで物事に対処し、インスピレーションを大切にできるだけ素早く行動に移してください。

 漢方には似類補類(似たものは似たものを補う)という考え方があります。目の改善には目の形に似た足首の外側の少し下の丸いくりくりした骨を優しく揉むとよいとされます。同様に手首にも丸い骨の部分がありますので、これに気を入れるように優しくなでてください。

 漢方薬では「抑肝散(よくかんさん)」が有効です。神経の高ぶり、神経症、不眠症、小児夜泣きなど、もともとは子どもに効果がある漢方薬ですが、最近は認知症の老人にもよく処方されるようで、気持ちが穏やかになる効果があるとされます。

「啓蟄」の時期に心と体を整える食べ物

 桃の節句には蛤(はまぐり)が食されます。貝殻が二つ合わさったものなので、めでたいものの象徴とされますが、健康を保つのにも有効です。食すことで気を鎮め、痰を切るとともに口渇を癒し、視力低下にも効果的です。解毒作用もあります。

 ねぎは、体を温め、気管支の不調にもよい食材です。辛味で温性なので、焼いても鍋にしても風邪に効果的です。酸性なのでストレス改善にも役立ちます。さらに血流をよくするので冷え性改善に効果があります。解毒作用もあるので下痢にもよいでしょう。

 以上を参考に、しっかり体を整え、良い食事を摂れば、心身ともに「啓蟄」の時期を健やかに過ごすことができるはずです。

 次回は「春分」の時期の心と体の整え方を紹介します。