ビル・ゲイツ、デビッド・ベッカム、ダライ・ラマ、オードリー・タンなどの同時通訳を務めてきた田中慶子さんが、日常やビジネスで役立つ「生きた英語」をやさしく解説。今回は、11年前にロンドンに移住したギタリスト・布袋寅泰さんと対談。海外で一からスタートした布袋さんのチャレンジ、音楽に対するプロフェッショナリズム、アーティストとしての生き方、50歳からの新しいチャレンジを成功させるための秘訣――。前編では、慣れ親しんだ日本とは異なる文化での生活やコミュニケーションにおける、苦労やサバイバル術を布袋さんにお聞きしました。(文:奥田由意、編集:ダイヤモンド社 編集委員 長谷川幸光)
英語の語彙力以前に
考えていることを明確にしておく
田中慶子氏(以下、田中) 布袋さんは11年前にご家族でロンドンに移住されました。移住後は、言葉の違いで苦労されましたか?
布袋寅泰氏(以下、布袋) そこはミュージシャンという職業に助けられた部分があります。音楽は世界の共通言語といわれているように、しゃべらなくても音楽を通してコミュニケーションができるんです。音楽のマジックですね。
1962年生まれ。ギタリスト。ロックバンドBOØWYのギタリストとしてデビュー、1988年にアルバム『GUITARHYTHM』でソロデビューを果たす。プロデューサー、作詞・作曲家としても活躍。クエンティン・タランティーノ監督『KILL BILL』に「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY(新・仁義なき戦いのテーマ)」を提供し世界的にも大きな評価を受けている。2014年にはThe Rolling Stonesと東京ドームで共演を果たした。 今年(2023年)、自身の誕生日である2月1日にライブBlu-ray&DVD『Still Dreamin' Tour』をリリース。
田中 外国で暮らしていて、思いもかけなかったことはありますか?
布袋 「自分が考えていることや言いたいことがこんなに曖昧だったのか」と思い知る局面が多々ありました。
日本語だと、考えがはっきりしなくても、話していく中で曖昧な思考を伝えることもできますが、日本語での考え方と英語での考え方って、やはり違いますよね。僕の勉強不足というのもありますが、頭の中で日本語で考えていることを、そのまま英語に翻訳しようとしても、どうしても無理がある。
自分の持つバックグラウンドやフィロソフィーなどを説明したくても、普段、明確に考えていなかったり、言語化することに慣れていなかったりするので、英語でどう表現すればいいか困ってしまう。ストレートに言えば伝わるのに、どうしても回りくどい表現になってしまってなかなか伝わりづらい。こうしたことがよくありました。
英語の語彙力以前に、考えていることや言いたいことを明確にしておく、そのための情報を知っておく、これらのことが非常に大切と感じました。
田中 考えが曖昧でも、とりあえず話しながら考えるというのは、母国語でなければできませんよね。「言いたいことを明確にしておく」というのは、私も英語で話すときに気をつけていることです。