会話はラリー、相手の呼吸に
合わせることで良いリズムが生まれる
布袋 逆に、伝わってないはずなのに伝わっていることもありますよね。信頼関係があれば、言葉のレベルで伝わらなかったからといって、その信頼は揺らぐものではないですからね。
気難しい人や、つかみどころのない人も中にはいると思うのですが、慶子さんは初めて会う人の通訳をされるとき、どのように会話をチューニングするのですか?
田中 言語化できない無意識の部分がとても大事で、時間などの関係で難しいこともありますが、可能な限り、事前に雑談をさせてもらって、リズム、テンポ、呼吸、口癖などを確認します。
布袋 それによって会話のフォルムをつかむということですね。
田中 以前、“Fundamentaly,” (根本的に)が口癖の人がいたんです。会話中にこの副詞が出てくると、その直後に大事な話になることが多いので、通訳者は身構えるのですが、その人は、3分に1回くらい、“Fundamentaly"と言っていて、そこに深い意味はないとわかったんです(笑)。雑談などで相手のキャラクターに触れておくことは、通訳する場合にとても大事な情報になるんです。
布袋 リズムやテンポでいえば、音楽のセッションの極意って、相手と自分との一瞬一瞬の呼吸にあるんですね。
相手の演奏が今まさに高まったなという瞬間を逃さず、自分のプレイを合わせることで、よいリズムが生まれる。
英語での会話も似ていて、思いが巡りすぎて結論を出すまでに長くなるので、あえて短縮して、相手の呼吸に合わせることで、リズムを大事にすることはよくありますね。
田中 音楽のセッションも、英語での会話も、お互いのリズムやテンポを尊重することで、心地よいものになる。
布袋 会話はラリーのように楽しむものなので、会話をしていておもしろいと思う人は、相手が気持ちいいと思うところに投げたり、投げ返したりする人なんだと思いますね。イマジネーションも豊かなんだと思います。
僕は、他人の良いところをピックアップするのが得意なプロデューサータイプだと自負しています。ですから、相手の演奏を優先して自分のことを後回しにしたり、意外と自分自身のプロデュースは下手だったりします(笑)。でも、音楽的な勘があり会話を楽しめるので、語彙力はなくともコミュニケーションは大丈夫なんですよ。
あと、最近は娘の英語がとても上手になって、うちの中に最高の通訳がいる。それでますます僕は語彙力を付ける必要がなくなりました(笑)。