「自分のことを認め、褒めてくれる」上司の存在
昨年2022年4月に中小企業の事業主にも義務化された「パワハラ防止法*4 」では、職場で行われる「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「労働者の就業環境が害されるもの」の3つすべてを満たす行為をパワハラと定義している。上司が部下を強く叱る・怒鳴ることはパワハラにつながりやすく、たとえ、パワハラにならなくても、強く叱られた側・怒鳴られた側のモチベーションは下がるだろう。行動心理学の観点から、水口先生が指摘する。
*4 厚生労働省 職場におけるハラスメントの防止のために 参照
水口 部下を強く叱ったり怒鳴りつけたりといった指導方法は逆効果だということが行動心理学で言われています。なぜなら、それらは部下の“行動量自体を減らす”からです。行動が減れば、失敗するチャンスも減ります。結果、失敗から学ぶ「経験学習*5 」が回らなくなる。つまり、上司が部下を強く叱ったり怒鳴ったりすることは経験学習の機会を奪い、部下の成長を妨げるのです。さらに、よく叱る上司からは、物理的にも心理的にも部下が離れていきます。そうして、上司は、部下の状況や本音を察することが難しくなり、「○○さんは何を考えているかわからない」と嘆くのです。
*5 HRオンライン 「経験学習」とは何か?新入社員が“仕事上の直接経験”で成長する方法 参照
では、どうすれば、モチベーションは高まるのだろう? 龍谷大学のアンケート調査から、多くの部下が「自分のことを認め、褒めてくれる」上司を求めていることがわかるが……。
水口 大切なのは、何のために部下を褒めたり、部下に感謝したりするのかということ。それを、しっかり理解し、考えている上司は少ないようです。「そもそも何のために褒めるのですか?」と、研修やセミナーの場で私が聞いても、即答できない方がほとんどです。「良い成果が出たときに褒めるのでは?」といった返答もありますが、成果を褒めることの効果はあまり大きくなく、ましてや部下のご機嫌をとるためでもなく、「部下に期待する“行動”を繰り返してもらうため」です。端的に言えば、組織にとって好ましい行動を増やすために、褒めたり、感謝したりするのです。部下は上司に褒めてもらって「うれしい」と感じたら、たいていは、「同じような行動をもっとしよう、次もやろう」となります。いま私が話していることは当たり前のように聞こえるかもしれませんが、いざ、ビジネスの現場で耳をすますと、「給料をもらっているのだから、やって当然」「間違った行動をしたら、がっつり叱る」という声が飛び交っています。“良いことはめったに褒めないけど、悪いことはきっちり叱る”というのが、組織にありがちな姿勢で、部下は叱られることを恐れて縮こまり、言われたことだけしかやらなくなります。「最近の若手社員は指示したことしかやらないんですよね」――上司はそんな不満をもらしますが、そうさせている原因は、上司側にもあるのです。
叱ることをいったん放棄してみましょう。心理学で効果的でないと考えられる指導方法を捨ててみましょう。部下の良い行動を見つけること、見つける努力をする姿勢が上司に望まれます。
調査概要:調査方法:インターネットアンケート調査(全国)/調査対象:企業に勤める部下(20~30歳)、上司(45~60歳)/有効回答数:1,000人(部下500人、上司500人)/調査期間:2022年1月11日(火)~13日(木)
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