毎週“10分間のコミュニケーション”を続けること

 厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査*7 」では、パワハラのある職場の特徴として、「上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない」が最上位になっている。

*7 厚生労働省 「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(令和3年4月)より

水口 上司と部下がお互いに避けている状況が伺い知れます。部下は、「良いことをしても褒めてくれないけど、失敗したら叱られるから上司には近づきたくない」、上司は、「『パワハラ!』と言われるのが怖いので、部下とのコミュニケーションを最小限に止(とど)めたい」と。コロナ禍で対面コミュニケーションの機会が減っていますから、日々の雑談から関係性をつくることも難しくなっています。コミュニケーションを高めるためには、オンラインでよいので、1on1ミーティングなどを定期的に行うことをお勧めします。

 コロナ禍のテレワークによって、組織内の対面コミュニケーションが減り、上司と部下の何気ない会話から生まれる「気づき」も少なくなっている。そうしたなか、オンラインでもリアル対面でも、1on1ミーティングのようなコミュニケーションの場をつくることが重要なのだ。「週に1回、10分間で十分」――水口先生はそう提言する。

水口 管理職の方々を対象にしたセミナーや研修で、「一週間の業務時間のうち、10分の時間が取れない方はいますか?」と私が聞いてみると、手を挙げる方はいません。これが、30分だと、「毎日忙しいので……」となりますが、10分だったら何とかなる。そして、1on1ミーティングでの対話は、どんなに話が盛り上がっても、10分で切り上げることが重要です。タイマーをかけて、必ず10分で終了させる。部下は、たった10分でも「上司と向き合うのは面倒だ」と思うでしょうが、毎週欠かさず、決められた時間に顔を合わせることが続けば、状況は変わってきます。ポイントは、“会社にとって”という視点ではなく、公私を問わず“部下にとって”大事なことを話してもらうこと。上司がするのは傾聴と質問だけ。1on1の主役は常に部下であって、上司の自慢話や説教は不要ということを忘れてはいけません。

パワハラをなくすために、今日からできる、上司と部下の向き合い方

 関係性は悪くないのに、話すことが苦手な部下、あるいは、自分のことを話したがらない部下もいるだろう。そうした相手に対し、上司はどのような姿勢で向き合うのが良いか。

水口 部下が口を開いたときに、「いや、それはちょっと違うんじゃないかな」と言葉を遮ったり、否定的な表情を見せたりするのは避けたいですね。「ちらっと話してみたけど……伝えてみて良かった!」と、部下に思ってもらうことが大切。そのために、上司には、にこやかな表情や興味津々な態度で聞く姿勢が欠かせません。無口な相手に対してはゆっくりとしたペースで向き合い、たとえ、期待していた会話量に満たなくても「今日はこれでいいだろう」と割り切って、10分間で終える。相手が思いきって喋ってくれたときに、「あっ、そういうことを考えていたんだ。ごめん、全然気づいていなかった……それで?」というふうに、聞き役に徹する立場を貫きたいです。

 そもそも、「パワハラを回避する」という理由で上司と部下のコミュニケーションが減るのはおかしな話で、「パワハラ!」と言われることを上司が恐れるのは、厳しい指導が前提になっているからです。「部下に対して、どこまで強く言っていいのか?」と考えているから、パワハラが気になってしまう。強く叱ったり怒鳴ったりするのではなく、「どうすれば、部下の良い行動が増えるのか?」を念頭に置けば、パワハラの加害者になる恐れはなくなります。