「人は見かけが大事だ」「髪の毛の印象で見た目が大きく変わる」「プロのスタイリストの技術には価値がある」という、理美容業界のマーケティングによる刷り込みがまずある。これに加えて、「自分もヘアスタイルによっては好印象になるかもしれない」「自分はヘアスタイルで損をしているかもしれない」という楽観・悲観両サイドの過剰な自意識が起動されて、人は「自分に合ったヘアサロン」を求めてさまようのだろう。筆者もそうだった。

 もちろん、ヘアスタイルに手間を掛けるプロセスを楽しむという立場があって構わない。また、ヘアスタイルが死活的に重要な職業や立場は確かにあるだろう。ただ、後者の立場にある人は、本人がそう思っている人の数よりもずっとずっと少ないに違いない。

 ことはヘアスタイルに限らないのだが、需要は意図的に作られている。マーケティングの作用を「解毒」することの効用は、経済的にも気分的にも大変大きいものがあるはずだ。

 文章としては、ここで結論にしてもいいのだが、蛇足を加える。

 以上のように悟ったつもりの筆者は現在坊主頭でいるのだが、1カ月くらい前から髪の毛の密度が戻ってきた。はじめは髪の毛以外の体毛を観察していて分かったのだが、密度が落ちても残った毛の周りに、短くて頼りない毛が生えてくる。そして、その短い毛は伸びるとやや固さを増す。こうした毛が増えて、全体の印象としての毛の「濃さ」が戻ってくるのだ。

 髪の毛の密度が戻ってきても、筆者は頑固に坊主頭でいるのだろうか。あるいは、何か理由を考えて、元のようなヘアスタイルに戻っていくのだろうか。どちらになるのかは、現段階では分からないと申し上げておく。