「弱い紐帯」が個人と組織に与える好影響とは?

 中井先生の著書『個人と組織の未来を創るパラレルキャリア ~「弱い紐帯の強み」に着目して~』は、「弱い紐帯の強み」をサブテーマにしている。「弱い紐帯の強み」(The strength of weak ties)とは、米国の社会学者であるマーク・グラノヴェッターが提唱した説で、「異なる生活圏・仕事圏で緩やかにつながっている人の持つ情報や視点が有益な情報・視点をもたらす」というものだ。「強い紐帯」は家族や仕事の上司・同僚といった「頻繁に会う身近な人」で、「弱い紐帯」はメールのやりとり程度の「ちょっとした知り合い」を指す。

中井 転職時などで「弱い紐帯」が有効に機能することは知られていますが、パラレルキャリアを開始するときにも、「弱い紐帯」が個人に好影響を与えることが、私が行った調査結果からもわかります。「弱い紐帯」である「ちょっとした知り合い」との再会や何気ない会話のやりとりが、資格取得に向けた勉強や新たな学びを始めるきっかけになったりするのです。私自身、成果が出ないときや先が見えないときなど、「弱い紐帯」からの情報やアドバイスなどによって次の展開への門が開かれたことが多々ありました。

 また、「弱い紐帯」は、異業種交流会やSNS上だけでの表面的な知り合いよりも、対面での交流経験や協働経験を通じて信頼関係がある場合に、効力をより強く発揮する点を強調しておきます。

 なぜ、「弱い紐帯」は、個人に「良いきっかけ」を与えることができるのだろう? また、「弱い紐帯」は、日常でのつながりがほとんどないことから、関係を維持することが難しいようにも思える。

中井 「弱い紐帯」の多くは利害関係が薄いので、本音の話や未知の情報を伝えてくれる可能性が高いのです。つまり、「弱い紐帯」での関係は、情報を与えやすく、与えられやすい。たとえば、会社の隣席に座る「強い紐帯」の同僚は出世競争のために情報をあえて隠すかもしれません。近しい関係(=強い紐帯)だからこそ遠慮して、本音を言わないこともあります。

「弱い紐帯」との関係を意識的に保つことはたしかに難しいかもしれません。あくまでも「ちょっとした知り合い」なので、再会は偶然のタイミングだったりするでしょう。年賀状のやりとりや機会があったときのメール交換程度で、何かあったときに、「あの人がいた!」と思い出すような間柄でよいと思います。「弱い紐帯」をつくるために行動するのではなく、行動していくなかで「弱い紐帯」が自然にできていくのが健全です。

シニア社員の“パラレルキャリア”が個人と組織にとって大切なのはなぜか?

 個人の持つ「弱い紐帯」は、個人が所属している企業・組織にも良い影響をおよぼすと中井先生は解説する。

中井 「弱い紐帯」を持つ個人が増えれば、企業・組織は未知の情報を得て、それが、組織変革や新たな事業展開、イノベーションを生む種になります。「弱い紐帯」は個人のパラレルキャリアのきっかけになるとともに、パラレルキャリアによって生まれるので、企業・組織が個人のパラレルキャリアを後押しする理由にもなるのです。