「パラレルキャリア」の推進にはトップの理解が必要

 目指すべきは、個人のパラレルキャリアの成果を企業・組織に還流させること――では、そのために、企業・組織側は、個人のパラレルキャリアにどう向き合い、どう推進していけばよいのだろう。「本人の意思と報告を待つだけ」という上司や人事担当者も多いのではないか。

中井 企業・組織が個人のパラレルキャリアを推進するにあたっては、トップの理解とコミットメントが肝心です。理解のある場合は問題ありませんが、理解のない場合、まずは、トップの理解を得ることが人事担当者の重要な仕事になるでしょう。いまの時代の経営者は、一意専心のシングルキャリアで突っ走ってきた方が多く、パラレルキャリアの現代的意味を理解できていなかったりします。パラレルキャリアの推進を、トップの理解がないまま、人事担当者が行ってもうまくいきません。

 それから、「パラレルキャリアが転職・離職を増やしてしまう」という誤解を、経営層も人事担当者もなくす必要があります。個人と組織の双方にメリットがある3つのパラレルキャリア――本業改善型パラレルキャリア、将来布石型(学び型)パラレルキャリア、社会課題解決型パラレルキャリアは、個人の転職・離職を目的としたものではありません。それを理解したうえで、社員のパラレルキャリアの実践・還流事例などを社内広報していけるといいですね。

 さらに言うと、トップのリーダーシップのもと、組織内に全体最適の視点で還流させる組織体制の構築も望まれるところです。

 中井先生は、シニア社員(50代)のパラレルキャリアは、「(ミドル社員時代の)40代後半で組織内での立ち位置を把握し、60歳以降(第2章)におけるキャリアの方向付けを行ったうえで、本業とオーバーラップさせたかたちで開始する」ことが理想だと語る。しかし、すでに50代になってしまい、パラレルキャリアを実践していない人が大多数だろう。シングルキャリアのままで定年待ちをしているシニア社員は、どのような一歩を踏み出せばよいのだろうか?

中井 定年退職が近づいて、いきなり、パラレルキャリアの実践を始めるのはハードルが高いかもしれません。まずは、興味や関心のあるNPOの活動などを調べてみたり、かつて、自分がやりたかったことを思い出してみたり、本当に好きなことを自問自答するのもパラレルキャリアに向けての一歩になると思います。私自身、10代の頃、教師への道を真剣に考えたことがありました。また、40代以降、もっぱら、財務戦略、IR、事業管理など数値系の仕事に携わってきましたが、入社以来、人材育成にかかわりたいと思い続けていました。

 やれることがあれば、まずはやってみること、本やロールモデルを参考にすること、「弱い紐帯」から情報を得たり、キャリアカウンセラーに相談したりすることもお勧めです。