個人と組織の双方にメリットがあるパラレルキャリア

 中井先生は、著書『個人と組織の未来を創るパラレルキャリア ~「弱い紐帯の強み」に着目して~』の中で、世間一般で「パラレルキャリア」と括られるものをタイプごとに分類し、パラレルキャリアのメリットを、「個人」と「組織」の2つの軸から論考している。

中井 (1)本業改善型パラレルキャリア、(2)将来布石型(学び型)パラレルキャリア、(3)社会課題解決型パラレルキャリア、(4)趣味型パラレルキャリア、(5)小遣い稼ぎ型パラレルキャリア(副業)の5つに分類しています。そうしたうえで、(1)(2)(3)の、「自らの学びや本業に沿い、社会に貢献するパラレルキャリア」が、個人と組織(=個人が所属している企業・団体における組織)の双方にメリットがあると、私は考えます。もちろん、個人の活動で終始するなら、(4)の「趣味型」も、(5)の「小遣い稼ぎ型」も問題ありませんが、組織への好影響はあまり期待できないでしょう。私が推奨したいのは、個人と組織の成長につながるパラレルキャリアであり、個人がパラレルキャリアで得たスキルを、何らかのかたちで本業に還元していくことが理想です。そうした姿勢でのパラレルキャリア(〈1〉〈2〉〈3〉)は、いわゆる「副業」とは異なり、報酬を得ることを大きな目的にしていません。自分のキャリアへの長期的・将来的な展望がベースにあって、未来志向なことも特徴です。

 今回のインタビューで私が語らせていただく「パラレルキャリア」は、(1)本業改善型パラレルキャリア、(2)将来布石型(学び型)パラレルキャリア、(3)社会課題解決型パラレルキャリアのいずれかを指すものとお考えください。

シニア社員の“パラレルキャリア”が個人と組織にとって大切なのはなぜか?

 本業改善型にせよ、将来布石型(学び型)にせよ、社会課題解決型にせよ、「パラレルキャリア」で個人が新たなスキルを得ると、転職活動をしたり、休職や辞職を考える機会が増え、組織にとってマイナスになるのではないか。

中井 個人がパラレルキャリアで得たスキルを、所属している企業・組織の中で発揮できるかどうかが鍵です。パラレルキャリアが転職・離職につながるのは、企業・組織側が個人をフォロー、活用できていないケースが多いですね。まずは、企業・組織側が、個人のパラレルキャリアの実践に理解を示し、然るべき対応をとることです。そのうえで能力に応じた処遇がなされ、スキルを生かせる場がある限り、そう簡単に社員は離職しません。むしろ恩義に感じて、組織へのコミットメント(愛社精神)は高まることも示されています。自分の新たなスキルを現在の環境下で発揮できる場がある限り、転職・離職を抑制する効果があると言えます。

 組織内だけでイノベーションを実現することが困難な時代、企業・組織はパラレルキャリアを推進し、社外で得たシーズを事業拡大やイノベーションにつなげることに注力すべきと言えます。