G7広島サミットが大成功といえない訳、日本の安保を巡る「真の課題」とはWPA Pool/Gettyimages

紛争のさなかにあるウクライナのゼレンスキー大統領が電撃来日したことで、G7広島サミットは「大成功した」という見方が強まっている。これを絶好の機会と捉え、岸田首相が衆議院を解散するかもしれないという説まで浮上している(首相本人は否定)。だが昨今の国際情勢に鑑みると、今回のサミットで根本的な問題が解消されたとはいえない。日本にとっての「真の課題」も残されたままだ。そういえる要因を詳しく解説する。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)

原爆資料館を訪問しながら
武器供与を強化する“矛盾”

 主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)が5月19~21日に開催された。このサミットでは「核廃絶」に向けたさまざまな取り組みが進められた。

 例えばG7の首脳は、核軍縮に特に焦点を当てた初のG7共同文書「広島ビジョン」を発表した。さらに、核のない世界を「究極の目標」と位置付けて、「安全が損なわれない形で、現実的で実践的な責任あるアプローチ」に関与するという声明文も発表した。

 ウクライナに軍事侵攻を続けるロシアに対しては、「核兵器の使用の威嚇、ましてや核兵器のいかなる使用も許されない」と訴えた。

 印象的だったのは、核を保有する米英仏を含むG7首脳がそろって広島平和記念資料館(原爆資料館)を訪問したことだ。

 リシ・スナク英首相は記者会見で、子どもたちの遺品である三輪車や血だらけでボロボロの学生服を見たことを明かし、「深く心を揺さぶられた」「ここで起こったことを忘れてはならない」と語った。

 このように、サミットでは先進国の指導者が被爆の悲惨な現実を知り、平和の実現に向けて決意を新たにしたはずだった。

 だが、その空気は、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が電撃的に来日したことで一変したように思う。

 ゼレンスキー大統領が出席したG7拡大会合で、G7首脳陣は「軍事・財政の両面でウクライナへの支援を継続する」との姿勢を改めて示した。その結果、日本もウクライナへの支援を強め、自衛隊の軍用車両を史上初めて「紛争の当事国」に提供することが決まった。

 いわば「世界平和」と「ウクライナの徹底抗戦」という、似て非なるテーマが議論の俎上(そじょう)に載ったわけだ。