中国などの権威主義陣営が
「和平」を提案する“逆転現象”

 さらにいえば、現状では米英日など「自由民主主義陣営」がウクライナの徹底抗戦を支持し、中国など「権威主義陣営」が和平を提案している(第327回)。これは、自由民主主義の本質とは外れた「逆転現象」だ。

 今回のサミットによって、この「逆転現象」はさらに強まったといえる。ウクライナへの支援継続が決まり、欧米の利益のために続けられてきた戦争が、さらに継続されることになったからだ。

 これにより、サミットでの「核廃絶」の取り組みも印象が薄くなってしまった。

 看過できないのは、この話し合いが、唯一の戦争被爆国である日本の、それも被爆地である広島で行われたということだ。日本は戦争の恐ろしさについて身をもって知り、平和国家としての道を歩んできたにもかかわらず、上記の「逆転現象」をさらに際立たせる舞台になってしまった。

 だからこそ筆者は、サミットを「大成功」と捉えて、衆議院の解散ムードが高まっている現状に違和感を禁じ得ない。

 さらにいえば、サミットの成功を主導したはずの日本は今後、世界で孤立するかもしれない。

 欧米諸国の中でも、独仏伊などEU諸国と米英では、微妙にウクライナ紛争についての立場が異なる。EU諸国は、先述したメリットがありながらも、できれば早期の停戦を進めたいのが本音だろう。

 これまでエネルギー源をロシアに依存してきたEU諸国は、ウクライナ紛争を機に、エネルギー源の「脱ロシア化」を進めてきた。だが、各国が新たに米国から輸入しているLNG(液化天然ガス)は、ロシアからのパイプライン経由のLNGより割高だ。

 このまま紛争が長引き、EU諸国が割高なLNGを輸入し続けると、ボディーブローのように経済に打撃を与え続ける(第304回)。早期停戦が実現し、ロシアへの経済制裁が撤回されれば、EU諸国はこのエネルギーコストを削減できるのだ。

 一方で、EU諸国以上に“勝ち組”の米英は、戦況を長引かせながら「ロシアをどこまで苦しめられるか」を探っている状況だ。先述の通り、戦争が長引くほどにプーチン政権を打倒できる可能性が高まるため、積極的に停戦させる理由はないのが本音のはずだ。

 だが、もし今後、中国の「和平案」が新興国などの支持を集めるなど国際世論の潮目が変わり始めたら、米英が手のひらを返す可能性もある。米英が一挙に、和平の主導を握ろうと動くかもしれないため、今後の動向には注意が必要だ。