バリューと人事制度から「自社ならではのカルチャー」をつくる

中川 僕はずっと「中川政七商店は理念経営をしている」と思ってきました。ですが、『理念経営2.0』を読んでみて、まだまだ解像度が低かったなと感じています。とくに企業理念を組織文化に落とし込む方法などは、まだやれていないことをたくさん発見しました。カルチャーデック作りなどは絶対にやろうと思いましたね。

佐宗 カルチャーデックは、御社ならうまく機能すると思いますよ! でも逆に「あ、これもビジョンにつながる行動だった」と再発見することもあったのではないでしょうか?

中川 そうですね。後半に書かれている「企業理念を人事制度に落とし込む」という点については、気づいたことがあります。

 僕が入った当時の中川政七商店は、田舎の中小企業でしたから、そのときには人事考課がありませんでした。それはさすがにまずいだろうということで、あるときから始めたんですが、最初はすべて定性的な目標を設定するようにしていたんです。数字をいっさい持ち込まない方法で、8年くらいやっていました。

理念経営2.0』を読んだとき、「あの当時やっていたのは『バリューに沿った行動ができているか』のフィードバックだったんだな」と気づかされましたね。「あなたのこの振る舞いはバリューに適合していてとてもいいね」とか「この振る舞いはバリューに反しているんじゃないか」とかいう話をしていたんだと思います。その結果、企業理念に資する組織文化が作れたのかなと思います。

 ちなみに、社員があまりに数字に無頓着なのも組織としてはよくないなと思い、今では定量的な目標も取り入れています。

佐宗 おもしろいですね! 御社には「こころば」という10か条の価値基準もありますよね。あれは昔からあったものなのですか? 老舗企業の歴史の中で育まれた要素なのでしょうか?

【中川政七商店・中川政七さん】職場でよくないことが続いたら「儀式」を見直そう

中川 いえ、あれは2008年につくったんです。

佐宗 そうなんですね。どんなふうにつくったんでしょうか? シンプルながら会社の人格が伝わる素敵な言葉だなと思ったんです。

中川 僕が仕事をする中で日々心がけ、大切にしていることや、スタッフの仕事ぶりに違和感を持ったこと、気づいたことなどを2年ぐらいひたすらメモしていました。それを最終的に足し引きしながら10個にまとめたんです。

 うちに独特の組織文化が生まれているのは、これらを人事考課などを通じてこつこつ浸透させ続けてきたからだと思います。バリューをもとに新しい独自のカルチャーを作ったことになりますね。

 たとえば、うちでは根回しは一切いらないんです。コミュニケーションコストがかかるから、そういうことはやめようね、と。中途入社の人だったりすると、「表向きは社長がそう言っていても、やっぱり根回しが必要なんでしょう?」と考えてしまうみたいですが、本当にワンテーブルで、その日に関係者が一堂に会してぱっと決める方法をとっています。こういった文化をつくっているのが、人事考課やこころばなどの積み重ねなんだろうなと思います。

佐宗 なるほど、やはりさまざまな仕組みで理念経営をなさってきたのだとわかりました。

【中川政七商店・中川政七さん】職場でよくないことが続いたら「儀式」を見直そう

(次回に続く)