2023年4月に「離乳食の全店無料提供」の開始を発表するや、SNS上で“炎上”的な反応が沸き起こったものの、企業理念に沿った秀逸な対応によって、世間から高く評価されたスープストックトーキョー。「世の中の体温をあげる」という理念を掲げて同社を経営するのが、代表取締役社長の松尾真継さんだ。
そんな松尾さんが「規模の大小や業種・業態を問わず、いま、すべての会社の人が読んだほうがいい」と絶賛している一冊がある。企業理念(ミッション・ビジョン・バリューなど)の策定・実装を手がける佐宗邦威さんの新著『理念経営2.0』だ。
お二人が考える理念経営のあり方、理念を組織文化に落とし込むための方法、そして「炎上事件」の舞台裏と後日談などを、松尾さんと佐宗さんによる対談形式でお届けしていく(第1回/全3回 構成:フェリックス清香 撮影/橋本千尋)。

【スープストックトーキョー社長に聞く】「理念経営」と「宗教」はどこが違うのか?

「理念のつくり直し」に役立つ本

佐宗邦威(以下、佐宗) 以前からスープストックトーキョーさんは「理念経営」という言葉を使われていますよね。最近になって理念経営を始める企業が多いなかで、前身となるスマイルズ時代、そして分社化してからのスープストックトーキョーの理念経営には以前から注目していました。

松尾真継(以下、松尾) まずは、佐宗さんの『理念経営2.0』のなかでスープストックトーキョーを取り上げてくださりありがとうございました! この本は「まさに我が意を得たり」という感じで、非常に共感しながら読みました。

 スープストックでは「世の中の体温をあげる」という理念を掲げています。また、母体であるスマイルズには、これに加えて「生活価値の拡充」という企業理念と、「5感」と呼ばれる理念実現のための行動規範があります。僕らが24年やってこられたのは、やはりこうした考えがあったからこそだと思っています。

 いま、日本では10年続く企業は6.3%、20年続くのは0.4%だと言われていますよね。会社が生き残るには利益を出さねばなりませんが、数字を追い求めるだけでは会社は続かないし、もはや世の中はそんな会社を求めていません。「社会をどうしたいか」「自分たちの存在意義が何なのか」を定義しないまま短期的な数字だけを求めていけば、いつか組織は崩れてしまう。

 会社を長く続けていくためには、理念に基づいて商品やサービスをつくり上げていかなければいけません。『理念経営2.0』は、そうした僕の考えをはっきり代弁してくれている本だと感じました。「すばらしい本なので全員読むように」と幹部たちにも伝えたところです(笑)。

佐宗 なんと……ありがとうございます! トップクラスの理念経営を実践されている松尾さんにそう言っていただけるのは、ものすごく光栄です。

松尾 もちろん、自分なりに理念経営をしてきたという自負はありますが、この本を読んでみると、正直なところ「まだまだ足りないな…」と思いました。佐宗さんも書かれていましたが、企業理念は社長1人でつくるものではなく、みんなで一緒につくらないといけません。じつは昨年、4、5人ずつ全社員を社長室に呼んで、1回につき3時間くらい自分たちの理念についてディスカッションする機会を持ったりはしたのですが、それでもこの本を読むと「まだまだだな…」と感じさせられました。

 また、理念は変えないにしても、行動規範である「5感」のほうはつくり直しが必要になるかもしれないと思っています。なぜなら、これをつくったのは2005年で、もう18年も前のことだからです。当時と今とでは、会社を取り巻く環境が違いますよね。

 だからといって、経営陣だけで集まって言葉をつくり直して、「はい、新しく行動規範を決めました。現場のみなさん、あとはよろしく!」と押しつけるようなものではない。意識のすり合わせが必要になります。そういうときに、この本は役に立つだろうと思いました。

【スープストックトーキョー社長に聞く】「理念経営」と「宗教」はどこが違うのか?
松尾真継(まつお・さねつぐ)
株式会社スープストックトーキョー 代表取締役社長
1976年生まれ。99年早稲田大学法学部卒、日商岩井(現、双日)、ファーストリテイリングにて野菜ブランド事業立ち上げなどに携わったのち、04年に三菱商事のベンチャー子会社だったスマイルズに入社。部長、事業部長などを歴任後、08年のMBOによる会社独立時に取締役副社長に就任。16年2月からは同社から分社した株式会社スープストックトーキョーの取締役社長と兼務、21年4月からは代表取締役社長と株式会社スマイルズの取締役副社長を兼務。スープストックトーキョーでは、“世の中の体温をあげる”を自分たちの理念として掲げ、独自の理念経営を通じてブランド力を向上させ続けている。