働き方の多様化などに対応した取り組みが必要

 企業・団体における「就業規則」では、「○○でなければならない」「□□をしてはならない」という書き方が大多数だ。それにはいくつかの理由がある。

下田 「就業規則」は労使間の契約です。曖昧な書き方で誤解を招いてはいけません。厳密さを求めるあまり、法律的な書き方になっているのだと思います。

 さらに言えば、多くの会社では、「就業規則」を“問題のある社員”に対する防御策として位置付けている面があります。問題行動を繰り返す社員、つまり、組織にマイナスの影響を与えるような社員がいたとき、どう対応するかを意識してつくっているのです。

 確かにそうした社員も存在しますが、全体に占める割合はどれくらいでしょう? ひとつの会社の中で、もし、5割も6割もいるとしたら、それは「就業規則」の範疇を超えた問題です。一般的にはせいぜい1割程度だと思います。残り9割の社員は、会社に対して、マイナスの感情を強く持っているわけではありません。「就業規則」をベースに、大多数の社員が、前向きに、モチベーション高く、最大限のパフォーマンスを発揮できるにはどうするかを考えたほうが経営的なメリットは大きいはずです。

「就業規則」の細かな書き方(表現方法)で、企業や組織そのものが変わっていくとは思えないが……。

下田 もちろん、「就業規則」だけで組織や人が変わるわけではありません。しかし、きっかけになることは間違いありません。

 昨今、社員の働き方の多様化などによって、会社の経営環境が大きく変化しています。例えば、コロナ禍で在宅勤務が当たり前になり、人事部や総務部が「就業規則」を見直したケースが多かったと思います。

 その際、単に、勤務場所や勤務方法について見直すだけで済ませるのか、そうではなく、戦略的に業務のあり方全般を見直すかで大きな違いが生まれます。つまり、自社はどのような人材を採用し、その人材にどのような働き方をしてもらうのか、そのためにはどのような働き方のルールにしたらいいのか――「就業規則」の内容はそうしたことを考えるきっかけになるのです。ある会社では週休3日制を導入し、「就業規則」を見直しました。子育てをしている社員など、いままでのルールでは働きにくかった人もいきいきと働けるようにしていくためです。「就業規則」はトラブル防止のためにあるのではなく、経営戦略の視点から考えるべきなのです。