「業績はいいのになぜか優秀な社員から辞めていく……」
「リモートワークが増えて組織の一体感がなくなった……」
「新しい価値を提供する新規事業が社内から生まれない……」
「せっかくビジョンやミッションを作ったのに機能していない……」
こうした悩みを抱える経営者たちからの相談を受けているのは、新刊『理念経営2.0』を上梓した佐宗邦威さんだ。本書には、人・組織の存在意義を再定義する方法論がぎっしり詰めこまれている。
企業は「利益を生み出す場」から「意義を生み出す場」にシフトしなければ生き残れない。そこに「意義」を感じられなければ、企業からはヒト・モノ・カネがどんどん離れていくからだ。
そこで今回、企業理念の策定・実装に向けたプロジェクトを数多く担当してきた佐宗さんにインタビューを実施。「これからの時代の企業リーダーに求められること」について聞いた(取材・構成/樺山美香、撮影/疋田千里)。
企業理念が活きている組織は
「ナラティブ」と「歴史」を大切にしている
──ミッション、ビジョン、バリューなどの企業理念が、実効性のあるものとして機能している企業の経営者は、どんな取り組みをしているのでしょうか。
佐宗邦威(以下、佐宗) 理念が機能している企業には、社員一人ひとりが理念について語る自分なりの解釈(ナラティブ)を大事にしているという特徴があります。ふだんの会議のなかで、ふつうに企業理念の話が出てくるんですね。さらに、自分たちの来し方、原点とも言える歴史を踏まえた語りが生まれてくるようになると、さらにナラティブに魂が入ります。
具体的には、その会社がどういうきっかけで生まれて、どういう価値を生み出してきたのかという過去の物語があり、その歴史をふまえてはじめて何を生み出したいか?という未来の話につながります。現在から未来のことを考える企業は多いのですが、それをナラティブにするためには過去の歴史が必要なんです。
僕が担当するワークショップでも、過去・現在・未来をつないで見せてあげると、自分たちにできるかもしれないことや、これから何をすべきか、という議論が深まります。特に歴史ある大企業は事業数も実績も多いので、未来に向けた選択肢も膨大にある。その中からどれを選ぶべきか?という話になると複雑になるので、各事業部のビジョンを語ってもらって点と点をつなぐように物語にしていくわけです。
理念としてのビジョンがあっても解像度が低いと、「何をすればいいんだっけ?」と行動に移せません。解像度を上げた議論をするためにも、組織のナラティブと個人のナラティブを接続させる物語の力がとても大事なんですね。
──そのように歴史を活用したナラティブが機能している企業として、本書で取り上げているソニーや山本山の事例はすごくわかりやすかったです。
佐宗 どちらも大切に守ってきた歴史があるからこそ、それを資産として新しい価値を生み出すことができました。オムロンの話も本に書きましたけど、最初に相談を受けたときは長期ビジョンを策定した100枚くらいのPDFファイルがあったんです。時代分析、事業戦略、組織戦略まで情報が盛りだくさんのすばらしい内容でしたけど、100ページのPDFを読んで社員がそれを自分ごとにするのは難しいですよね。
そこで見せ方そのものを変えました。過去オムロンはどんな会社だったのか? どんな未来の社会を実現したいのか? そのために自分たちはどんなアイデンティティを持った人であるべきか? これからは何をして、何をやめればいいのか? そういった「問いかけ」を入れた組織の物語の構造に変えたんです。
当時の経営陣にも、オフィシャルな発言とは別に自分自身の考えや価値観、過去・現在・未来に向けた思いを伝えてください、とお願いして個人の思いを率直に語ってもらいました。