マーケティングを一切考えない「伝説の経営者」が重視する、「孤独の力」とは?

コロナ禍によって人と人との距離が遠くなり、誰もが「孤独」を感じやすい今。「相談できる人がいない」「自分一人で判断するのは難しい」と頭を抱える人は多いだろう。しかし、国内外の企業で数々の経営再建に携わり、NHK「SWICHインタビュー達人達」でコシノジュンコ氏と対談、著書『ぜんぶ、すてれば』は4万部超のベストセラーとなるなど、今注目を集める「77歳・伝説の経営者」中野善壽氏は、「個」を磨く「孤独」こそ最強の武器になると、11月17日に発売された最新刊『孤独からはじめよう』で述べている。
世界に1人しかいない自分の個性を信じ、感じること、考えることを楽しみ尽くす。過去にも未来にもとらわれることなく、今この瞬間を全力で生きる。そのためには、ただ素(す)の自分をさらけ出せばいい。本当に自分が納得できることだけやればいい。そのような生き方で他人に依存することなく、数々の企業で成果を出してきた中野氏に、自分の「弱さ」を「強さ」に変える孤独力の鍛え方について聞いた。
(取材・構成/樺山美夏、撮影/疋田千里)

「孤独」が仕事の武器になる

――孤独からはじめよう』では、「孤独が仕事の武器になる」とあります。孤独を力に変えて「個」を研ぎ澄ませば本質に気づきやすくなる、クリエイティブな発想も生まれやすくなる、と。中野さんはどのように「個」を研ぎ澄ませてきたのでしょうか。

中野善壽(以下、中野) 1日最低2時間は、誰にも邪魔されないところで自分の内面に向き合っています。

 といっても何か考えているわけではありません。僕の部屋からフジテレビの球体(展望室)が見えるので、朝日が昇る様子をぼーっと眺めながら、「今日の陽の色は違うな」、「あ、もう冬だな」とか、日々の変化を感じているのです。

 そういう変化を意識しながら、毎朝、自分自身に対峙しながらお祈りをして、掃除をして、鏡を磨くので、そのとき自分の顔もじっくり見ます。自分の顔さえも毎朝まったく違って見えるんですよ。

 それから丁寧に顔を洗ってマッサージまでします。スマホは持っていないし、ネットはほとんど自分では見ないですね。

――を拝読すると、中野さんはそのように「個」を研ぎ澄ます習慣が身についていて、ほとんど感性や勘で仕事をされています。パリ、ニューヨーク、台湾と海外でのお仕事も長かったのに、語学、資格、スキルなど一切興味がないですね。

中野 母国語じゃない言語を大人になってから覚えようとしたって、ちゃんと話せるわけがないんだから。めちゃくちゃでも通じればいいんですよ。仕事で必要なら通訳をつければいい。

 できることは自分でやって、できないことは役割を分担すればいいんです。

 僕は結構できないことが多くて、たとえば、つまらないことですがお菓子の袋を開けるとか、単純な生活動作が得意じゃありません。

 この前も夜、美容師さんにヘアカットしてもらっているとき仕事の電話が入って、数字に関する話をしていたら、「中ちゃん、その足し算引き算の数字、合ってないわよ。夜は数字の話はしないほうがいいんじゃない?」って、その美容師さんに指摘をうけました。「あ、それもそうだな」と(笑)。そんな感じで何かと周りに心配されることが多いです。

「個」として自立することは大事だけれど、できないことを無理してものすごいエネルギーを使ってまで覚えたり習ったりする必要はありません。できる人に助けてもらえばいい。

 僕はよく強い人に見られがちだけど、むしろ弱い人間です。だから、「一人では何もできない」ことを自覚し、そして孤独な存在であることを認めているのです。周りにもそう伝えてきたからこそ多くの人が手を貸してくれたのだと思います。

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