経営者の孤独を解消しなければ、組織は「ひらいて」いかない

──創業者であればまた違うのかもしれませんが、大企業の社長がそこまで自分と向き合いビジョンを深掘りして伝えるのは覚悟がいりそうですね。

佐宗 「理念経営1.0」の会社は、トップが答えを持っていて、みんながその答えに従っていけばいいというモデルですが、これは経営者がめちゃくちゃ孤独になるんです。経営者が孤独になると心を開けないので、結局、思考も開いていかないし、新しいことにチャレンジしていこうという空気も生まれません。

 日本の企業がなかなか変われない構造のひとつは、これが原因だと思っています。組織のトップが、「自分で答えを出さなきゃいけない」という強いプレッシャーを抱えている問題があるのです。それは小さな企業の経営者をしている自分自身にもありましたし、今もまったくないわけではありません。でも経営者の孤独が解消されない限り、組織って「ひらいて」いかないんです。

 感覚的な話なのですが、経営者が心を開いて、「答えがわからない」ということを社員に投げかけると、それが社員自身の問いになり、自分ごとになります。その中から、社員自身が答えを自ら見つけていくようになると、組織として創造性が生まれてくるんですよね。ヒエラルキー型の組織を自律型に変えようとするときには、「経営者の孤独」という大きな壁にぶつかります。この根本的な課題を乗り越えるためには、経営者がある意味では弱さをさらけ出して、企業理念という「答えのない問い」を社員にも投げかけることで、社員を同志にするしかないのではないか。これが『理念経営2.0』で提案したかったことです。

「問い」でよければ、プレッシャーになりにくいですよね。答えがない時代になったら、みんなで問うていけばいいのです。「問うこと」とはすなわち哲学することと同義なので、みんなで哲学する土壌を耕すくらいの感覚でやっていけばいい。そうすると組織全体の集合知として、だんだんいい答えが見えてくるはずです。

──確かに、トップダウンの経営スタイルだと、現場は受け身になって何も言えなくなるので物語も生まれないでしょうね。

佐宗 だから僕は、仕事をする大企業の経営者にも「個人のストーリーや人間らしさみたいなものを見せてくださいと」わざわざお願いしているんです。それと近い話ですが、経営者でもわからないことがあれば「わからない」とはっきり言ったほうがいいです。「わからないから一緒に考えよう」と言えばいい。そうやって経営者も社員も関係なくみんなが常に意義を問うていく思考の蓄積が、組織の生態系をつくる土壌になります。

 理念経営2.0を実践している企業は、自分たちなりの問いを徹底的に考えていますし、理念についての「思考の総量」が全然違います。経営者が一人で深く考えている企業もあるかもしれませんが、みんなで考えることに意味があります。つまり、「ミッション・ビジョン・バリュー」そのものは、そうした思考の土壌から生まれてくる花や果実に過ぎないんですね。大事なのは、その背後にある思考の土壌のほうで、問えば問うほどその企業の哲学の土壌が熟成されていくと思うんです。この本で一番伝えたかったのはそこですね。

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