「資本コスト」「コーポレートガバナンス改革」「ROIC」といった言葉を新聞で見ない日は少ない。伊藤レポートやコーポレートガバナンス・コード発表以来、企業には「資本コスト」を強く意識した経営が求められている。では、具体的に何をすればいいのか。どの経営指標を採用し、どのように設定のロジックを公表すれば、株主や従業員が納得してくれるのだろうか?
そこで役立つのが『企業価値向上のための経営指標大全』だ。「ニトリ驚異の『ROA15%』の源泉は『仕入原価』にあり」「M&Aを繰り返すリクルートがEBITDAを採用すると都合がいいのはなぜか?」といった生きたケーススタディを用いながら、無数の経営指標の根幹をなす主要指標10を網羅的に解説している。すでに役員向け研修教材として続々採用が決まっている。
そんな『経営指標大全』から、その一部を特別に公開する。

東証が開示好事例として取り上げるエーザイのROEAdobe Stock

エクイティ・スプレッドで示されるエーザイのROE

 エーザイのROEは、2020年3月期まで堅調な成長を遂げ、18.6%まで達している(図表5−12)。

東証が開示好事例として取り上げるエーザイのROE図表5-12 エーザイの連結ROE(IFRS)
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 コーポレートガバナンスコードの解説の中で、東京証券取引所はエーザイを原則5-2の開示好事例の1社として取りあげていることを紹介した。主たる理由として、エクイティ・スプレッドを企業価値のKPIと定め、株主資本コストは保守的に8%に設定したうえで、段階的にROEとエクイティ・スプレッドの目標を設定していることとしている。エクイティ・スプレッドとは、ROE−株主資本コストで算定されるものである。ROEが株主資本コストを上回るか否かではなく、いかに大きく株主資本コストを上回るかを具体的数値で示している点で、エーザイは評価されている。

 エーザイは自社の株主資本コストについて「製薬企業はディフェンシブ銘柄であるものの、当社としては保守的に株主資本コストを8%と仮定しています」(エーザイ「コーポレートガバナンス報告書」2020年11月5日)としている。ディフェンシブ銘柄とは、業績や株価が景気の影響などを受けにくいことを意味しており、株主資本コストを算定するCAPMで使用するベータ値は、1倍を切る低めの値となることが妥当である。ところがエーザイでは、「保守的に株主資本コストを8%と仮定する」としている。

 エーザイの一連の考え方を、筆者が定義する3つの資本コストに照らして考えれば、下記のように仮定できよう。

「理論が求める資本コスト」はディフェンシブ銘柄なので低いのだが、
「市場が求める資本コスト」を保守的に重視して8%に設定し、
③エーザイがROE向上という「目的に従って採用する株主資本コスト」、すなわち目標値は15%

 ①も②も③もすべて絶対の正解ではないし、誤りでもない。あくまでエーザイがROEを介して株主とどう向き合いたいかの姿勢の表明である。

 エーザイは、ROE8%を目標にしているとは言っていない。中長期的に10年平均で正のエクイティ・スプレッド(株主資本コストを上回るROE)の創出をめざし、具体的には中期経営計画「EWAY 2025」の中間点である2021年3月期にはROE10%レベル、エクイティ・スプレッド2%レベルの達成をめざし、最終年度の2026年3月期にはROE15%レベル、エクイティ・スプレッド7%レベルの達成を意識するとしている。下記のような4段階のステップを踏んだ開示形態である。

ステップ1 理論が求める資本コストを把握
ステップ2 市場が求める資本コストを把握
ステップ3 ROE向上という目的のための資本コストを決定
ステップ4 エクイティ・スプレッドをKPIとして段階的な目標として開示

(次回「【エーザイ】価値創造レポートに見る人的資本など非財務資本と株式価値の融合」に続く)