「資本コスト」「コーポレートガバナンス改革」「ROIC」といった言葉を新聞で見ない日は少ない。伊藤レポートやコーポレートガバナンス・コード発表以来、企業には「資本コスト」を強く意識した経営が求められている。では、具体的に何をすればいいのか。どの経営指標を採用し、どのように設定のロジックを公表すれば、株主や従業員が納得してくれるのだろうか?
そこで役立つのが『企業価値向上のための経営指標大全』だ。「ニトリ驚異の『ROA15%』の源泉は『仕入原価』にあり」「M&Aを繰り返すリクルートがEBITDAを採用すると都合がいいのはなぜか?」といった生きたケーススタディを用いながら、無数の経営指標の根幹をなす主要指標10を網羅的に解説している。すでに役員向け研修教材として続々採用が決まっている。
そんな『経営指標大全』から、その一部を特別に公開する。
株式価値と非財務資本を融合させる試み
エーザイでは、持続的に株主価値を最大化するための財務戦略マップをCFOポリシーとして策定している(図表5−13)。この戦略は「ROEマネジメント」、「配当方針」、「投資採択基準(VCIC)」の3つの柱で構成されている。この財務戦略マップ上にあるすべてのキーワードについては、いかなる上場企業にあっても、自社での優先順位を念頭に置きながら必ず検討し、必要に応じて実行に移すべきものであろう。本マップの中心に「ROEマネジメント」が位置付けられていることは、エーザイの財務戦略の中心にROEがあることを示していよう。
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エーザイは毎年の統合報告書(2021年より「価値創造レポート」と呼称)の中で、ROEをデュポンシステムの3つにブレークダウンした要素に分けて、主たるトピックを説明している(図表5−14)。ROEに真剣に向き合う企業に見られる1つの開示の仕方である。
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また、エーザイは同じ価値創造レポートの中で、図表5−15の非財務資本とエクイティ・スプレッドの価値関連性モデルを紹介している。これは先に紹介した残余利益モデル(数式C)における2つめの項(将来残余利益の現在価値)について、①Intrinsic Valueと②IIRC-PBRモデルの2者で構成されることを説明しようとするものである。
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①Intrinsic Valueモデル
市場付加価値=「ESG/CSRの価値(資本コスト低減効果)」、「顧客の価値」、「人の価値」、「組織の価値」と定義
②IIRC-PBRモデル
株主価値=長期的な時価総額=「株主資本簿価」+「市場付加価値」の前提で、株主資本簿価は「財務資本」、そして市場付加価値は「知的資本」、「人的資本」、「製造資本」、「社会・関係資本」、「自然資本」といった5つの「非財務資本」と関連づけてIIRC(International Integrated Reporting Council、国際統合報告評議会)の6つの資本の価値関連性を説明
あくまでエーザイにおける価値評価の考え方だが、経済的な株主価値は非財務資本と長期的に融合することを説明しようとするモデルである。経済的な価値と、「知的資本」、「人的資本」などの非財務資本の整合性に関して疑問を抱く読者であれば、エーザイの価値創造レポートは一読の価値があるだろう。