エーザイとの訴訟で厚労省への「怨嗟」をニプロが吐露、行政訴訟なら業界挙げて応援?Photo:PIXTA
*本記事は医薬経済ONLINEからの転載です。

 厚生労働省の後発品の承認ルールに不満があるならば、厚労省へ訴訟を仕掛けるべき――。

 5月10日、もともとはメーカー同士の特許争いだった訴訟に対し、当事者間での解決ではなく「厚労省への行政訴訟」を投げかける異例の判決を知的財産高等裁判所が下した。原告はニプロで、エーザイに対して「エーザイ製品の後発品を出したいので、エーザイとして問題ないことを確認してほしい」と求めた訴訟だ。

 判決で焦点となった承認ルールとは「先発品の特許が残っていれば後発品を承認しない」という、厚労省の通知のことだ。これまで、多くの後発品メーカーを悩ませてきたルールでもある。

 今回の訴訟を通じて、ニプロは後発品メーカーを代表するように厚労省のルール運用への不満をぶちまけた。

 ことの発端は、21年に遡る。エーザイの乳がん治療薬「ハラヴェン」の後発品を申請したいと考えたニプロは、事前調整の一環でエーザイに対して「後発品を発売しても、特許権を行使しません」という言質を取ろうと、同年5月7日頃に確認のための書面を送った。だが、エーザイは「行使する可能性がある」と反論。ニプロの要求を突き返してしまった。

 これを受け、ニプロは同年5月31日付で東京地方裁判所へ訴訟を提起。事前にエーザイへ尋ねたように「ニプロの後発品はエーザイの特許を侵害しておらず、ニプロが後発品を発売しても、エーザイは販売差し止めや損害賠償請求をしないこと」などの確認を求めた。

 実際にニプロは、係争中の翌22年2月、ハラヴェンの後発品を承認申請している。だが、同年8月に東京地裁はニプロの訴えを棄却。エーザイに特許侵害の有無を確認してもニプロの「利益」には関係がなく、両者に「紛争は生じていない」と判断した。そんな東京地裁の判決を不服とし、ニプロはさらに知財高裁へと控訴した。

 ちなみにハラヴェンの後発品は、日医工が21年2月にいち早く承認を取得済み。だが、その後現在に至るまで、収載はされていない状況だ。

 これまでの大まかな流れは以上のとおりだが、ニプロが訴訟までして「確認」したかったことは何なのか。その背景には、いわゆる「2課長通知」と呼ばれる厚労省の後発品承認ルールがある。

 通知は、09年当時に厚労省の医政局経済課と、医薬食品局審査管理課が出したもの。(1)先発品に物質特許が残っている場合は承認しない、(2)一部の適応症に用途特許が残る際は、その適応症については承認しない――といった考え方が示されている。

 要は「先発品の特許が残っていれば後発品を承認しない」というルールで、各国でも導入されている「パテントリンケージ」の考え方が反映されている。米国のように法律上の規定はなく、あくまでも通知上の運用だが、厚労省は「安定供給」を理由に承認審査のなかで特許抵触の有無を確認している。

 だが、先発品の特許が残っているのかどうか、それを厚労省がどう判断したのかは、公表されることはなくブラックボックス。実際には、先発品企業へ「医薬品特許情報報告票」の提出を任意で求め、これをもとに承認するかどうかを判断しているようだ。この報告票も非公表のため、理由もわからず承認が“塩漬け”となる後発品も少なくない。多くのメーカーが不満を募らせてきた点でもある。

 それならば、先手を打って後発品メーカー自らが訴訟で「先発品の特許は残っていない」ことを明らかにすれば、厚労省も後発品を承認しない理由がないだろう、というのがニプロの思惑だった。