新型コロナウイルス禍が落ち着き始め、企業業績への影響も緩和されてきた。だが、円安、資源・原材料の高騰、半導体不足といった難題がいまだに日本企業を苦しめている。その状況下でも、企業によって業績の明暗が分かれているが、格差の要因は何なのか。上場企業が発表した直近四半期の決算における売上高を前年同期と比べ、各業界の主要企業が置かれた状況を分析した。今回は大塚ホールディングスやエーザイなどの「製薬」業界5社について解説する。(ダイヤモンド編集部 濵口翔太郎)
塩野義製薬は過去最高決算も
エーザイは減収・営業減益
企業の決算データを基に「直近四半期の業績」に焦点を当て、前年同期比で増収率を算出した。今回の対象は以下の製薬業界5社。対象期間は2022年11月~23年3月の直近四半期(5社いずれも23年1~3月期)としている。
各社の増収率は以下の通りだった。
・大塚ホールディングス
増収率:17.9%(四半期の売上収益4483億円)
・エーザイ
増収率:3.8%(四半期の売上収益1982億円)
・協和キリン
増収率:6.6%(四半期の売上収益935億円)
・塩野義製薬
増収率:マイナス23.5%(四半期の売上収益883億円)
・小野薬品工業
増収率:20.3%(四半期の売上収益1082億円)
製薬5社では、塩野義製薬を除く4社が増収だった。中でも、大塚ホールディングスと小野薬品工業は2桁増収と好調だ。
唯一の減収となった塩野義製薬は1年前の22年1~3月期に、抗HIV薬「ドルテグラビル」を含む製品群から得たロイヤルティー収入などによって前年同期比58.8%増と大幅増収を果たしていた。今回分析対象とした23年1~3月期は、そこからの反動減の影響が大きかった。
さらに塩野義製薬は、第3四半期までは売上収益がプラスで推移していたことから、23年3月期の通期売上収益が前期比27.3%増の4267億円で着地。通期業績として「過去最高」を更新した。増収効果の後押しで、通期累計の営業利益と純利益も「過去最高」となった。
その立役者となったのは、22年11月末に承認された新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」だ。23年3月期は日本政府がゾコーバ200万人分を計1000億円で買い上げており、これが前期にはなかった増収・増益要因として好決算に寄与した。
一方、製薬5社のうち、アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」を米バイオジェンと共同開発したエーザイは、23年3月期通期の売上収益・営業利益が前期実績を下回った。中でも、営業利益は前期比25.5%減と2桁減益である。
レカネマブは日本で承認が下りていないなど、本格的な販売はこれからのため、塩野義製薬のゾコーバとは状況が異なるものの、「新薬で話題の企業」である両社の通期業績はなぜこれほど差がついたのか。
次ページ以降では各社の増収率の時系列推移を紹介するとともに、エーザイと塩野義製薬の業績について詳しく解説する。