新型コロナウイルス禍に円安、資源・原材料の高騰、半導体不足など、日本企業にいくつもの試練が今もなお襲いかかっている。その中で企業によって業績の明暗が分かれているが、格差の要因は何なのか。上場企業が発表した直近四半期の決算における売上高を前年同期と比べ、各業界の主要企業が置かれた状況を分析した。今回は大塚ホールディングスやエーザイなどの「製薬」業界5社について解説する。(ダイヤモンド編集部 濵口翔太郎)
エーザイは営業利益8割減
塩野義製薬は営業利益2倍で格差鮮明
企業の決算データを基に「直近四半期の業績」に焦点を当て、前年同期比で増収率を算出した。今回の対象は以下の製薬業界5社。対象期間は22年8~12月の四半期(5社いずれも22年10~12月期)としている。
各社の増収率は以下の通りだった。
・大塚ホールディングス
増収率:20.7%(四半期の売上収益4719億円)
・エーザイ
増収率:マイナス7.6%(四半期の売上収益1876億円)
・協和キリン
増収率:16.6%(四半期の売上収益1146億円)
・塩野義製薬
増収率:151.6%(四半期の売上収益1876億円)
・小野薬品工業
増収率:25.6%(四半期の売上収益1223億円)
製薬5社では、塩野義製薬が3桁の大幅増収を成し遂げた。大塚ホールディングス、協和キリン、小野薬品工業も2桁増収と好調だ。
その一方でエーザイは減収と、明暗がはっきりと分かれた。
別の記事で取り上げた中外製薬や武田薬品工業なども含め、本連載で分析対象とした製薬業界の計9社のうち、22年10~12月期の四半期業績が減収だったのはエーザイのみである。
今回分析対象とする四半期からは外れるが、エーザイは22年9月に、米製薬大手のバイオジェンと共同開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」が、治験によって「症状の進行を抑える効果が確認された」と発表。大きな話題を呼んだ。
レカネマブは23年1月6日に米食品医薬品局(FDA)から承認を取得し、早くも1月18日に米国で発売された。現在は日本・欧州での承認申請の取得を目指しているほか、中国の国家薬品監督管理局へのデータ提出も行っているという。
新薬開発で注目を集めるエーザイだが、22年3月期の第3四半期累計(22年4~12月期)決算でも減収に陥った。また、利益面でも第3四半期累計の営業利益は前年同期比81.4%減、最終利益は同35.0%減と大苦戦を強いられている。
一方、新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」が22年11月末に緊急承認された塩野義製薬は、第3四半期累計の売上収益が前年同期比54.1%増、営業利益が同142.4%増(約2.4倍)、最終利益が同122.2倍(約2.2倍)と絶好調だ。
塩野義製薬では、すべての利益項目が第3四半期累計で過去最高を更新しただけでなく、すでに通期の過去最高益を上回っているという。
「新薬で話題の企業」という点では同じだが、両社の業績にはなぜ差がついたのか。
次ページ以降では各社の増収率の時系列推移を紹介するとともに、エーザイと塩野義製薬の現状について詳しく解説する。