どうすれば組織全体にデザイン意識を浸透させられるか、経営層との共通言語のつくり方

経済産業省と特許庁の「『デザイン経営』宣言」から5年。着実に広がりつつある「デザイン経営」のリアルに、さまざまな角度から肉薄するシリーズセッション「デザイン経営の現在地」(主催:SPBS THE SCHOOL、Takram、ダイヤモンド社)がスタートした。第1回は6月14日、ARCH虎ノ門ヒルズインキュベーションセンターで開催され、会場とオンラインを合わせて200人近くが参加した。90分にわたる白熱の議論の一部をご紹介する。(取材・構成/フリーライター 小林直美、ダイヤモンド社 音なぎ省一郎 撮影/まくらあさみ)

【お知らせ】「デザイン経営の現在地」第2回は8/2(水)の開催となります。ゲストはエムスリー・古結隆介氏とマネーフォワード・金井恵子氏です(詳細は こちら から)。
第1回のアーカイブ動画(有料)も こちら で視聴可能です。

富士通、コニカミノルタの事例から考える、大企業のデザイン経営

 「デザイン経営」とひと口に言っても、企業規模、カルチャー、エンドユーザーとの接点の有無、事業領域などによって、取るべきアプローチはさまざまだ。そこで本セッションは、モデレーターの田川欣哉氏(Takram代表)と、デザイン経営研究の第一人者・鷲田祐一氏(一橋大学大学院経営管理研究科教授)がホスト役となり、それぞれ異なる立場でデザイン経営に取り組む実践者をゲストに迎え、日本のデザイン経営の現状と課題を多角的に掘り下げていく。

 第1回では、複雑な事業構造を持つ大企業で、どのように合意形成を進めていくかを主題に、平賀明子氏(元コニカミノルタデザインセンター長)と、宇田哲也氏(富士通デザインセンター長)の2人がゲストスピーカーとして登壇。まずは両氏から、大企業のデザイン組織長として、どのようにデザイン経営を先導してきたかが報告された。

(1)企業価値創造に貢献するデザイン組織へ──富士通・宇田哲也氏

 富士通のデザイン経営の取り組みは、2020年4月の「富士通デザインセンター」発足に始まる。

 初年度は、現場から経営トップまで約13万人に及ぶ富士通グループの全従業員にデザインマインドを浸透させるべく、「デザイン思考」の全社教育に注力。2年目からは、社内の各組織の変革に伴走しつつ、新規サービス開発にも積極的に取り組んだ。3年目以降はブランディングやIR施策など、企業全体の価値づくりへの参画が飛躍的に増えたという。

「今、当センターの社内での立ち位置が明らかに変わってきていることを実感しています。活動の成果が反映される場所が、損益計算書(PL)上のコストから利益へ、さらには貸借対照表(BS)上の資産へ──と、移ってきたのです。今後はファイナンス的な『未来の企業価値の創造者』を目指し、さらに進化したいと思っています」と宇田氏は語る。

どうすれば組織全体にデザイン意識を浸透させられるか、経営層との共通言語のつくり方TETSUYA UDA

 一連のプロセスで宇田氏が重視してきたのが、「デザイン効果をできるだけ分かりやすく定量化すること」だ。現在、事業貢献、全社貢献、デザイン組織力向上、社会貢献などの軸で指標を体系化する研究も進めており、その成果は社外にも積極的に公開していく予定だという。

(2)「デザイン」を、当たり前の経営活動に──元コニカミノルタ・平賀明子氏

 コニカミノルタは、16年にデザイン部門を社長の直下組織化し、翌17年に同部門トップの平賀氏がデザイナーとして初の執行役員に就任するなど、先駆的にデザイン経営に取り組んできた企業だ。そして現在、デザインセンターが全事業部門に横串を刺す形で、①ブランドデザイン、②商品・サービスデザイン、③企業の持続的成長のための仕組みのデザイン、の3つの機能を担うようになっている。

 持続性のあるBtoBビジネス実現という視点から、デザイン思考を「長期にわたって、顧客と共に成長し続ける関係構築のメソッド」として位置付けているのが大きな特色で、事業上のKPI(重要業績評価指標)と対応する顧客関係を指標化し、評価と改善を繰り返すことで、経営の持続的な成長をはかる仕組みとすべく、研究を続けてきたという。

どうすれば組織全体にデザイン意識を浸透させられるか、経営層との共通言語のつくり方AKIKO HIRAGA

 経営層との合意形成については、「社長を含む役員一人一人との『直接対話』で進めてきました」と語る平賀氏。「しかし、本当にデザイン経営を全社に根付かせるためには、経営トップ層にデザイン経営チームを置き、経営の総意として推進するのが理想です」と、経営層を当事者として巻き込むことの重要性を強調した。