創造の場を、もっとコンヴィヴィアルに
東京大学工学部卒業後、国際情報科学芸術アカデミー、LEADING EDGE DESINを経て現職。デザイン、エンジニアリング、アート、サイエンスまで領域横断的な活動を行う。主なプロジェクトに、「HAKUTO」月面探査ローバーの意匠コンセプト立案とスタイリング、NHK「ミミクリーズ」アートディレクション、21_21 DESIGN SIGHT「アスリート展」展覧会ディレクターなど。2015年よりグッドデザイン賞審査員を務める。
photo by YUMIKO ASAKURA
──今企画されているワークショップも、そんな視点を取り入れた内容になるのでしょうか。
はい。まさに現在進行形のパラダイムシフトの渦中ですから、「ワークショップとは?」という根本に立ち戻り、「ワークショップを作るワークショップ」にチャレンジしたいと思っています。「AI時代のワークショップのプロトタイプ」を作る試みといってもいいかもしれません。
そもそも「プロトタイピング」は、デザインエンジニアの核となる行為です。これまでも、スケッチやムービー、モック、場合によってはサービスそのものを小さく立ち上げてみるなど、さまざまなプロトタイプを作ってきました。今回は、AIを活用しつつ、新しいワークショップの意味や在り方を考え直していくものになると思います。
ところで、そもそも人がワークショップをやる目的って何でしょうか。
──新しいアイデアを出したり、企画を生み出したり、課題を解決したりすることでしょうか……。
そうですよね。しかし、どこで考えようと、結局のところアイデアの源泉が自分自身であることは変わりない。それでも人はわざわざ集まろうとします。異質な他者がいて、思考フレームがあって、時間が決まっていて……という「場」に身を置くと、やっぱり自分から出てくるアイデアが変わることを多くの人が経験しているからです。つまり、「自分の意志」や「自分の思考」はそれほど強固ではなく、身の置き場所によって変わるようなものなのだ──という前提が、ワークショップに意味を与えていると思うのです。
哲学者の國分功一郎さんが、著書『中動態の世界』(医学書院)で、能動態でも受動態でもない「中動態」という概念を紹介しています。中動態とは、意識的に「やる」のではなく、誰かに「される」のでもなく、自分自身が「何かが起きる場になる」ことです。だとすると、ワークショップは非常に中動態的な場です。そこに自律的な新しいテクノロジーであるAIを加えたら、場がもっとコンヴィヴィアルになるのではないか──それを考えてみたいと思います。
──面白そうです。まさに、今しかできない、今だからこそできるワークショップですね。
参加者、ファシリテーター、ペルソナ、あるいはアイデアを鍛えるための壁打ち相手……といったさまざまなロールをAIに与えつつ、新しいワークショップの形を探っていく。場を共有した人たちが「どう変わるか」をゴールにすれば、非常にコンヴィヴィアルな試みになると思います。ChatGPTは、プラグインやプログラムを組み込むと色んなツールが作れるので「ワークショッププラグイン」みたいなものを作るのも面白いと思っているんですよ。
──「一人でワークショップができるツール」が作れるかもしれない?
そうですね。そんなツールがあれば「自分以外全員AI」のワークショップも開けます。ただ、もう人間が集まる必要がないということではなく、むしろ人間同士が集まる価値や意味が改めて見いだされるのではないかとも思います。いずれしても大事なのは、手っ取り早く正解を求めたり、AIに全てを任せて自動化や効率化を目指すのではなく、自分の発想や考え方の変容をもたらす方向にテクノロジーを使うことだと思います。
ビジネスにワークショップを組み込んで、さまざまな形で共創にチャレンジしている人は多いと思います。しかし、そのときは楽しくても、思ったほど新しいものが出なかったとか、課題が解決しなかった、というモヤモヤを抱えている人も少なくないのではないでしょうか。新しいものを「作る場」を、もっとコンヴィヴィアルにする試みに、ぜひ参加してほしいと思います。