110mの暗闇の洞窟で
続々見つかる新種や珍種

 2015年に開始した海底洞窟研究プロジェクトでは、沖縄島、伊江島、下地島の3か所の海底洞窟を対象としました。沖縄島と伊江島の海底洞窟は奥行が50mほど、下地島のものは110mほどあり、洞内は完全な暗闇です。また、これらの海底洞窟は、沈水した鍾乳洞(溶食地形がみられること)で、洞内の奥部には淡水の影響を受けて極端に塩分が下がる場所(アンキアライン環境といいます)があることが共通した特徴となっていました。

 これらの海底洞窟を潜水し、動物を手づかみやタモ網などで直接採集するほか、トラップを設置して誘引された動物を採集しました。また、深くて危険性の高い場所では、リブリーザー(閉鎖式循環呼吸潜水器)という特殊な潜水器具を用いて調査したこともあります。

 調査では、海綿類、貝類、十脚目甲殻類(エビ、カニ、ヤドカリの仲間)、棘皮動物などの大型無脊椎動物が数多く採集され、多数の新種が含まれていることが明らかになってきました。

 研究チームのメンバーで海綿動物を専門とする伊勢優史博士によると、下地島の海底洞窟で採集された海綿類は60種にもおよび、特に洞窟奥部のアンキアライン環境に生息する種の大部分は、まだ論文で新種として発表されていない未記載種の可能性が高く、かつ、それらの近縁種は、深海や大西洋のみから知られている種なのだそうです。現在、伊勢博士と共同で新種として発表する作業(新種記載作業)を進めているので、近い将来に紹介できると思います。

ドウクツモザイククモヒトデドウクツモザイククモヒトデ(写真提供:藤田喜久)

 棘皮(きょくひ)動物のクモヒトデ類では、現在までに19種が採集されており、研究チームのメンバーである岡西政典博士との共同研究で、そのうちの3種(クニガミクモヒトデ、ドウクツモザイククモヒトデ、コンボウアワハダクモヒトデ)が新種記載されました。特にドウクツモザイククモヒトデは、アンキアライン環境に特化した種であると考えられています。このような環境に生息するクモヒトデ類は、大西洋バハマの海底洞窟に生息する種に次いで、世界で2例目となる貴重な発見となりました。