私の専門の十脚目甲殻類でも、イエジマガマガザミ(カニ類)、ユノカワヒラオウギガニ(カニ類)、クラヤミテッポウエビ(エビ類)、オクノスベスベオトヒメエビ(エビ類)などの新種が次々に見つかりました。特にクラヤミテッポウエビの記載では、単なる新種というだけでなく、種よりも大きなグループである属としても新発見だったため、「新属」を設立することにもなりました。このほかにも、エビ類、ヤドカリ類、カニ類で複数の「未記載種」を採集していて、現在も記載作業を進めています。

クラヤミテッポウエビクラヤミテッポウエビ(写真提供:藤田喜久)
イエジマガマガザミイエジマガマガザミ(写真提供:藤田喜久)

 また、新種以外にも、めずらしい種が見つかっています。たとえば、イラウモエビはリュウグウモエビ科に属する体長3㎝ほどのエビ類で、いわゆる新種ではありませんが、世界的にも報告例の少ない非常にめずらしい種です。イラウモエビは、下地島の海底洞窟の入り口から約110m進んだ洞窟最奥部のアンキアライン環境だけに生息していました。

イラウモエビイラウモエビ(写真提供:藤田喜久)

 なお、本種は、下地島のほかには、ハワイ諸島、南太平洋のツバル、アフリカに隣接するシナイ半島、という地理的に離れた場所から「飛び石状」に記録されていて、生物地理学的にも興味深い事例となっています。

 このように海底洞窟からは続々と新種の動物が見つかっていますが、「アンキアライン環境が存在する海底洞窟」ということが、新種発見のための重要な要素になっていることがわかってきています。

 人間自身が潜水できる身近な水深帯においても、未だ「フロンティア」(広い可能性を秘めた未開拓の分野・領域)は存在していて、海底洞窟もその一つだと私は思っています。今後も「探検」を続け、新種を数多く発見することで、「海底洞窟」という環境のすばらしさを伝えていきたいと思います。

新種発見物語新種発見物語 足元から深海まで11人の研究者が行く!』(岩波書店)島野智之・脇司 編著