会見でもFCVは商用優先を強調
乗用では水素燃料車が先行する可能性も
同テクニカルワークショップでの取材や記事化を通じて、メディアの中ではトヨタの水素戦略について改めて疑問や質問が出てきた。
これに対応するため、7月中旬にオンラインで中嶋副社長や山形水素ファクトリープレジデントらが参加したメディア向けラウンドミーティングが行われた。
26年から量産予定の第三世代のFCスタックを搭載する車両は、30年時点で主に商用車となる。その比率としては、大型トラックが多く、商用バンも含まれ、さらに一部乗用車にも適合するとした。
FCVの普及については、30年時点で見ると、まず国や地域での施策による規制やインセンティブ(補助金や税制優遇措置など)を強化する中国と欧州が燃料電池車市場の創出における「ペースメーカーになる」(中嶋副社長)という見解を改めて示した。
要するに、商用車の需要増によって、水素の価格とFCVに関するFCスタックや水素タンクを含めた車両コストを下げることが、FCV市場拡大の基本ということである。
さらに水素使用の効率と航続距離のバランスが良い大型トラックに対応して、水素ステーションを数が増えることで、乗用FCVの需要も段階的に増えてくるものと推測している。
トヨタの技術的な強みとして、第三世代のFCセルの通常版と、そのハーフサイズ版を同じ生産ラインで製造する技術を確立しつつある点を強調した。
これによって、乗用FCVを含めた多様な量産車へのコスト対応力が上がると見込む。
また、同じく水素を燃料とする、エンジン(内燃機関)を使う水素燃料車については「ボリューム(量産台数)は別に、ある地域に市場投入を前提に開発している」(中嶋副社長)という事業計画を初めて明らかにした。
実際、同テクニカルワークショップでは、筆者はレクサス「LX」ベースの水素燃料試験車を運転したが、エンジン回転数が毎分1000回転から2500回転の低回転域では、若干のトルク不足を感じたものの、日頃の運転シーンを考えるとかなり量産に近いと感じた。
試乗に同席した開発者は「エンジン内で発生する水の処理に関する課題の解決策が見えてきている段階」と量産に向けた前向きな発言が印象的だった。
いずれにしても、水素を商用車や乗用車で広く使うためには、国や地域の社会状況に応じた水素製造方法や、水素の運搬方法などを含めた総括的なエネルギー政策を、産官学で連携して進める必要があることは、これまでと変わりはない。
いまだ水素関連市場の全容がはっきりとは見えてこない中、トヨタとしてはまずは自社努力による次世代開発を最優先しながら、市場を創造していく構えだ。
BEVについては、トヨタの生産台数として30年には年間350万台を目標に定めている一方で、FCVでは30年に向けてパートナー企業向けの外販で年間10万台と市場規模はかなり小さい。
年間10万台のうち、5万台程度が小型商用車と乗用車、4万台程度が大型トラック、そして産業用などが1万台程度としているが、乗用車の割合はかなり小さいと表現している。
そのため、乗用FCVの普及は、少なくともトヨタに関しては、大型トラックと小型商用車によるFC関連部品の量産効果がはっきりと見えてくる2030年代以降になることが予想される。