ホームラン打率1割を超えると
「すごいホームラン王」になる

 そもそも私が最初にメジャーリーガーのホームラン打率を計算してみたのは、2001年にバリー・ボンズが年間73本というメジャーリーグ最多本塁打記録を打ち立てたときでした。

「とにかくよく打つなあ。何打席に一回、ホームランを打っているんだろう?」

 と素朴な疑問が湧いたからです。

 それで計算したところ、この年のボンズのホームラン打率は1割5分3厘でした。これは、6~7打数に一度ホームランが飛び出すことを意味する数字です。ボンズ選手はマークされてフォアボール(四球)も多いため、実際は9打席で一度ホームランを打っていたというのがこのときの記録です。

 では、メジャーリーグでホームラン王になるためには、どれくらいのホームラン打率が必要なのでしょうか?

 過去10年間のメジャーリーグのホームラン王のホームラン打率を単純平均すると、0割8分0厘でした。12打数で一度、言い換えると3~4試合に一度ホームランが飛び出すというのが普通の年のホームラン王のペースです。そして最近の大谷翔平選手の活躍は、みなさんお気づきのとおり、このペースを上回ってホームランを量産しています。

 さて、大谷選手の数字に入る前にもう少し分析にお付き合いいただきたいと思います。歴代のすごいホームラン王のホームラン打率は、どれくらいなのでしょうか?

 バリー・ボンズに次ぐのは、98年に年間70本を打ったマーク・マグワイアでホームラン打率は1割3分8厘。マグワイアは翌99年にも65本を打ち、ホームラン打率1割2分5厘を記録しています。

 ただメジャーリーグに詳しい読者の方は、「ボンズとマグワイアの数字を取り上げるのは適切とはいえないよ」とおっしゃるでしょう。

 メジャーリーグでは90年代中盤から00年代中盤にかけていわゆるステロイド時代といって、筋肉増強剤を使うことでホームランが劇的に増加した時代だったからです。最初に「過去10年のホームラン王の平均」という数字を取り上げたのも、ステロイド時代のバイアスがかかった数値を避けたからでした。

 そこで、ステロイド時代の記録を除いて85年以降の記録を調べると、ダントツでホームラン打率が高かったのが、昨年のMVPでホームラン王となったヤンキースのアーロン・ジャッジ選手の1割0分9厘でした。ジャッジ選手は2017年にもホームラン王を獲得していて、このときは0割9分6厘とやはり1割前後の成績を残しています。

 実はこの「ホームラン打率1割」という数字が、今回の記事でみなさんに一番覚えていただきたい数字です。ステロイド時代を除くと、ホームラン打率1割を超えたすごいホームラン王は85年以降3人だけなのです。

 野球ファンの感覚で言えば打率の場合4割が伝説の数字で、2001年にイチローが記録した3割5分0厘が「すごい首位打者」の数字でしょう。それと対比させれば、ボンズの1割5分3厘は今後も出てこない幻の数字であり、ジャッジ選手らが到達した1割は、「すごいホームラン王」の証しとなる数字だということです。