アパートの管理を管理会社に委託した場合、その手数料は家賃の5%程度ですが、家賃水準がそれほど高くないIさんのアパートが立地する地域では無視できない費用です。Ⅰさんの場合、家賃で得た収益はリフォームなどに回すために少しでも多く手元に残しておきたいと思っていました。また、リフォームに踏み切るタイミングを判断したり、修繕についての計画を立てたりするためには、頻繁でなくとも定期的に物件を見ておく必要もあります。この煩雑な大家業を仕事や育児で忙しく過ごす息子や娘に背負わせるのは気が重いことでした。

 Iさんはたまたま私たちがクリニック誘致の提案をしていた人が友人で、その友人を介して私たちに連絡し、詳しい説明を受けに来たのです。Iさんが保有する350坪の土地の賃料は月に42万円と、アパート経営で得られる家賃70万円と比較すると収益はかなり落ちますが、アパートの経営には修繕やリフォーム費用、建設費、解体費が掛かることを考慮すれば悪い条件ではありませんでした。なにより、空室が発生した場合の気苦労を息子や娘に負わせる必要がないことがIさんには魅力的に思えました。

 結果としてIさんは古アパートを解体し、クリニックに土地を貸す決断をしました。広い道路に面したIさんの元アパートの敷地はすぐに借り手が見つかり、泌尿器科のクリニックが建設されることになりました。

 このことを息子や娘に報告したところ、2人とも高齢に差し掛かりつつあるIさんの保有する古アパートの管理をどうするか気に病んでいたらしく、非常に喜んでくれたそうです。先祖から受け継いだ多くの土地を保有しているIさんですが、すでに県外で生活基盤を築いている息子や娘に土地の管理のために地元に帰れとはとても言えません。自分も土地の活用や管理で収益を得てきたとはいえ、それなりの苦労も重ねてきたため、それを子ども世代に受け継がせたくはなかったのです。

 Iさんは土地の管理の手間がなく収益を得られるようになったことに非常に満足し、今度は保有する立地の良い農地についてもクリニックを誘致できないか考えています。そうして保有する土地の管理の手間を最小限に減らすことで、長い時間を掛けて自分の老い支度を進めたいと考えているそうです。