土地を借り受ける交渉に赴いた私たちに対応したのはAさんの妻でした。Aさんより若いとはいえすでに70代で、Aさんの介護もしている身としては大きな変化は望まないという回答でした。Aさんの妻はAさんと耕してきた畑に愛着をもっており、続けられるのならば畑作を今後も行いたいと考えていたのです。また、30年の契約が標準的である土地の賃貸契約についても、自分では面倒を見ることができないと感じたようです。

 私たちは1度では説明が不十分だと感じ、2度にわたり説明に訪れたものの、Aさんの妻の意思は固く、同意を得ることはできませんでした。私たちも諦めかけていたときに状況を変えたのは、Aさんの息子からの電話でした。

息子の説得で交渉成功!
新クリニックは大繁盛

 当時、Aさんの息子は寝たきりになった父と介護で多忙になった母に代わり畑を管理していました。しかし、平日の日中は都市部に位置する企業に勤務しており、畑を耕すことはできません。畑には土日に通うことでなんとか耕作を維持している状態でした。年齢は50代と定年間近でしたが、収益を得られない畑の耕作を父や母から引き継ぐことには後ろ向きで、定年後の時間を自由に使えるようになりたいと考えていたのです。交渉の際にはAさんの息子は同席していませんでしたが、父と母の家を訪ねた際に私たちの会社案内パンフレットが目に留まり電話をしたということでした。

 実質的に畑を管理していたAさんの息子が、自分は畑を続けたくはないため、収益が得られるのであれば人に貸したほうがよいと主張したことで事態は大きく動きました。Aさんの妻も折れ、Aさんの同意も得ることができ、元畑の土地には小児科のクリニックが開業することになりました。

 Aさん一家が得た地代は約250坪の土地に対して月26万円と決して高額とはいえません。しかし、土地を引き継ぐ予定のAさんの息子は非常に満足と安心を得ており、保証金についても解体費用の見積額ではなく6カ月分の賃料の設定で十分だという結論に至りました。

 結果として、建設された小児科のクリニックはその周囲の宅地で非常に評判の良い繁盛する病院になりました。優しい医師が診察を行う真新しいクリニックができたことで周囲の子育て世帯は非常に満足し、知り合いはAさんの妻や息子を褒めることもあったそうです。当初は畑をやめることに対して否定的だったAさんの妻も、クリニックの成功ぶりを見て息子の決断を褒めるようになりました。