二次創作BLと商業BL
似て非なるファン層
理解不足の一番の要因は、BLファンを「単に男性同士の恋愛が好きな“腐女子(BL好きの俗称)”」として、大ざっぱに捉えてしまうことだ。
「そもそもBLといっても二次創作と一次創作では楽しみ方に違いがあります。二次創作のBLとは、既存のコンテンツ(漫画、アニメ、ドラマなど)のキャラクター同士の恋愛をブログや同人誌などで描いたものです。現在でもBLファンの多くは、二次創作の描き手だったり、読み手だったりします。彼らは特定のキャラを好きというのが大前提です。好きなキャラクターたちの関係性を妄想して楽しんでいるので、“男性同士の恋愛ならなんでもいい”というわけではないのです」
一方、一次創作のBLはいわゆるオリジナル作品で、特に出版社などから刊行されるBL作品(小説、漫画など)は商業BLと呼ばれ、二次創作とは趣が異なる。
「商業BLはオリジナル作品がメインです。商業BLファンはジャンルとして楽しんでいるので、既存のキャラクターたちの関係性よりも、すてきな作品にどんどん出会いたいという思いが強いです。商業BL、二次創作どちらも好きという方もいますが、『二次創作だけが好きで、商業BLは興味がない』という方も多い。同じBLファンといえども嗜好は異なっているのです。それゆえBLファンをステレオタイプのイメージで捉え、画一的なアプローチをしてしまうことは危険なのです」(平野氏)
両氏によれば、こうしたふたつの“流派”に含まれないライトなファンや隠れファンもいるため、BLファン人口を正確に割り出すことは困難なのだそう。
しかし、その市場規模は巨大だ。サンディアスの調査によると商業BL(コミック、小説など)の年間の市場規模は約180億円で、二次創作(同人誌など)では約100億円だという。
「過去のデータからの算出なので、現在だとこれ以上あるかもしれません。実際、電子書籍ストア関係者に聞くと『そんなものじゃない』という体感を得ているそうです。ただ、これらを支えているのはコアなファンです。弊社がユーザーにアンケート調査したところ、月の平均消費額は1万3000円という結果でしたが、なかにはBL関連書籍に月10万円使う方も複数いらっしゃいました。出版社からのBL関連書籍は毎月100点ほど刊行されていますからね。また、BL関連の他にはアニメやアイドルへの消費が多いことがわかっています。ただ、現在は若いライト層も増えています。彼らはSNSや漫画アプリなどで無料、もしくは少額で作品を楽しむ傾向があるので、全体の客単価は下がっていると思われます」(平野氏)