日本のBLの“お約束”踏襲
国内でヒットするアジアBL
現在では国産BLだけではなく、海外のBL作品が人気だ。冒頭の中華BLの他にも特に韓国、タイなどアジア圏のBL作品のファンが増加中である。筒井氏によると、人気の海外BL作品にはある共通点があるという。
「日本的なBL作品には、“あるある”設定やお約束があるんです。たくさんあるのでここでは一例をあげると、これはなかなか言語化できないのですが、例えば“攻め”(恋愛関係においてリードする男性)はかっこよくてクラスの人気者、一方、“受け”(リードされる男性)は平凡な感じで、ちょっと天然というパターンは定番の設定のひとつです。BLはそのような設定やストーリーのテンプレを楽しむ文化もあります。韓国やタイなどアジアのBL作品は、そのような日本的BLを下敷きにした作品が多いので、日本のBLファンからも親しみやすく、人気を集める傾向にあるのかなと。ちなみに、アジア圏のBL人気の火付け役となったのは、コロナ禍で配信されたタイBL『2gether』で、こちらも日本的BLのお約束がちりばめられています」
もちろん、欧米圏でも「M/M」などと呼ばれる男性同士の恋愛を描いたBL的な作品は存在し、日本にも多くのファンがいる。しかし、「欧米はどちらかというとLGBTQの文脈が根底にあるため、日本やアジアのBLとは少し毛色が違う」(筒井氏)のだそう。ただ、この違いは「BLファン以外には同じに見えると思います」(同)とのこと。
また、BLには“地雷”と呼ばれるタブーも多くある。それを無理解ゆえに踏んでしまえば、ユーザーはたちまち離れてしまうのだ。
「地雷の一例は攻めと受けが逆転してしまう、通称“リバース”。他にも続編でそれまでのカップルの相手が変わってしまうことも炎上につながり、ファンが離れる要因になります。また、こちらの意味で使用した“地雷”とは別の意味になりますが、ファンが気になることとしてよく挙げられるのは、制作スタッフなどによる『BLの枠を超えた普遍的な愛を描いた作品です』という趣旨のコメント。これは、『BL=普遍的な恋愛物語ではないと認識されているのでは?』と捉えるファンも多いんです」(筒井氏)
このように、ファンの思いが強いからこそ、購買力などの熱量も強いのだろう。
「ビジネスとしてBLに関わる際は、BLファンを1人は参加させなければ、アプローチや設定などを間違ってしまう可能性が高いです。取り組みに成功されている企業は、市場規模などの数的調査ではなく、ファンの詳細やニーズなどの厳密な質的調査が必要だとおっしゃっていますからね。我々は『腐女子マーケティング研究所』という名称の事業を行っていますが、あえて“腐女子”という言葉を使っているのも、このような複雑さを考えてほしいという思いがあるからです。ビジネスを始める際に、BLファンを大くくりにせず、“腐女子”という言葉に含まれる意味やジャンルの多様さを考えてほしいのです」(平野氏)
BL関連のビジネスを始めるには、複雑な彼女らの行動や嗜好を的確に捉えなければならないのだ。