6月、ロシアの消費者物価指数(CPI)上昇率は3%を上回った。戦闘における「ロシア劣勢」との報道、民間軍事会社ワグネルの武装蜂起などをきっかけに、ルーブルが下落する場面も増えた。ロシア中央銀行は、自国通貨の下落によって輸入物価はさらに上昇し、インフレ懸念が高まる展開を懸念し、7月21日、予想外の大幅利上げに踏み切った。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
ロシア中銀、事前予想を上回る利上げの理由
7月21日、ロシア中央銀行は、政策金利を1.00ポイント引き上げ8.50%にすると発表した。利上げ幅は、事前予想の0.50ポイントを上回った。ウクライナへの侵攻が始まった直後、2022年2月以来の利上げだ。ルーブル安が加速し物価上昇に歯止めがかからないため、中銀として大幅利上げに追い込まれたということだろう。
ルーブルの下落によって、ロシアの輸入物価は上昇している。足元、ロシアのインフレ上昇ペースは勢いづいた。これまでロシア中銀は、消費者心理の悪化や財政への悪影響を避けるため、できるだけ利上げをしない方針を取ってきた。今回は仕方なく、金利の大幅引き上げに踏み切ったとみられる。
ただ、すぐにルーブルの下落圧力が弱まるとは考えにくい。7月17日、ロシアは、黒海経由のウクライナ産小麦の輸出の合意措置を停止すると発表した。オデーサへの度々の攻撃も、国際世論の懸念を高めた。
今後、欧米諸国が経済、金融制裁を強化する可能性は高まるだろう。となると、ロシアからの資金流出も勢いづくはずだ。それに伴い、ロシアの輸入物価の上昇ペースは高まり、インフレリスクも増すことが想定される。ロシア中銀の政策余地は、次第に狭まっているとみられる。