プーチン大統領Photo:Contributor/gettyimages

ワグネル反乱を機に表面化したロシアの混乱は軍上層部の粛清が取り沙汰されるなどなお続き、「プーチン戦争」の行方にも影を落とす。防衛研究所の兵頭慎治研究幹事は、絶対的権力を維持してきたプーチン体制に「二つの初めて」が起こったといい、統制力や求心力の陰りが表面化したとみる。その結果、プーチン大統領は失墜した威信回復や大統領選を意識して戦争の大義や戦果に固執し、ウクライナ戦争は停戦・和平の「出口」が一段と見えなくなり、泥沼化が予想されるという。(聞き手/ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)

プーチン体制で「二つの初めて」
政権中枢の武装蜂起に対処できず

――ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者、プリゴジン氏の反乱には、ロシア軍のスロビキン副司令官など、軍上層部が関与したとの見方が有力です。プーチン体制に何が起きているのでしょうか。

 これまでチェチェンで分離独立を目指すグループのような、プーチン政権とは距離を置く勢力が反乱やテロを起こすことはありました。しかし、ワグネルのような政権中枢の勢力による武装蜂起は、プーチン体制の下では初めてです。

 しかも、プーチン大統領はベラルーシのルカシェンコ大統領の手を借りないと反乱を収拾できませんでした。自ら反乱に対処できなかったのは、これもプーチン政権発足後で初めてです。プーチン氏は治安を乱す行動には「厳罰に処す」と発言しましたが、それもできずに、ベラルーシに追放したはずのプリゴジン氏がロシアに戻ってきたりしています。

 軍の高官がどこまでワグネルに協力したかは分かりませんが、少なくとも事前に計画を知っていて黙認していた可能性があります。そうでないと、南部軍管区司令部が簡単に制圧されて、あれだけの短時間でモスクワ近くまで進軍することはできません。

 こうした意味で反乱の衝撃は大きいものでした。絶対的とされてきたプーチン大統領の統制力あるいは求心力に陰りが見え始めていることを、内外に印象づけました。プーチン政権にとってダメージは大きいと思われます。

 プーチン大統領の統制力の絶対的神話が崩れた根底には、戦果も少ない中、長期化するウクライナ戦争の誤算と重荷があります。

ワグネル反乱でプーチン氏の求心力低下が露呈したことで、ウクライナ戦争の「出口」が見えなくなり、泥沼化すると予想する兵頭氏。次ページでは、「プーチン戦争」やウクライナの反転攻勢の今後や焦点について兵頭氏の分析を語ってもらった。