きっかけは「ロシア劣勢」「ワグネルの武装蜂起」

 6月、ロシアのCPI上昇率は3%を上回った。外国為替市場では、戦闘における「ロシア劣勢」との報道、民間軍事会社ワグネルの武装蜂起などをきっかけに、ルーブルが下落する場面も増えた。ロシア中銀は、自国通貨の下落によって輸入物価がさらに上昇し、インフレ懸念が高まる展開を懸念し、予想外の大幅利上げに踏み切った。

 ロシア中銀の本音は、大幅な利上げは避けたかっただろう。景気後退が鮮明となる中での利上げは、国内の消費者心理を悪化させる。戦費の増大によって悪化している財政にもマイナスだ。

 そうしたリスクを取ってでも、ロシア中銀は大幅利上げを実施せざるをえなかった。直近で、新興国の通貨の中でもロシア・ルーブルの弱さは目立つ。7月に入って以降、米国でのインフレ鈍化によって、一時、中南米などの新興国通貨が米ドルに対して反発する場面は増えた。それでも、ルーブルは軟調だった。

 中銀が事前予想の通りに利上げを実施すれば、市場参加者は「ロシア中銀のインフレ鎮静化への取り組み姿勢は不十分」と考えるだろう。展開次第で、ルーブルの売り圧力は高まり、“売るから下がる、下がるから売る”、という下落相場が鮮明になることも十分に考えられる。

 実際にルーブルの下落が鮮明化すれば、ロシア中銀は利上げによって自国通貨の下落を食い止めることが難しくなる。ルーブルの下落ペースによっては、ドル売り・ルーブル買いの為替介入を実施しなければならなくなる恐れも高まる。

 そうなる前にロシア中銀は、ルーブル売りを食い止める姿勢を明確に示しておかなければならない。輸入物価の上昇圧力を抑制する意思を明確に示すため、今回、ロシア中銀は予想を上回る1.00ポイントの大幅利上げに踏み切らざるを得なかった。そこまで追い込まれているということだろう。