ローカル私鉄が廃止の憂き目でも
100周年を迎えた銚子電鉄の未来

 銚子電鉄が辛うじて命脈をつないでいる間、関東ではローカル私鉄の廃止が相次いだ。同社が生き残れたのは、幸運に恵まれた側面もある。

 まず、銚子電鉄は確かに赤字基調だったが、ぬれ煎餅でカバーできる程度だった点。他社と比較してみると、茨城県日立市で運行されていた「日立電鉄」(全長18.1km、銚子電鉄の約3倍の長さ)は、銚子電鉄よりはるかに多い年間200万人弱の利用があったにもかかわらず、05年に全線廃止されている。年間2億円の赤字に加え、10年間で35億円の設備更新費が大きな負担となったからだ。

 また、ファンからのぬれ煎餅購入による買い支えが途切れず続いていることも大きい。コロナ禍で鉄道利用が大幅に落ち込んだ20年にも、「乗りに行けなくても、銚子電鉄を助ける!」という根強いファンのおかげで、オンラインショップの売り上げは10倍増、副業全体の売り上げは前年並みを確保したという。

 ぬれ煎餅を含む副業の売り上げは、21年3月期が3.9億円、22年3月期が4.5億円、23年3月期が5.3億円と、コロナ禍を物ともせず伸び、千葉県内の米菓製造業13社のうち、銚子電鉄が堂々の売り上げ第1位(帝国データバンク調べ)。先述したように23年3月期は補助金やコロナ特例があったものの、オンラインショップの拡充とファンの買い支えが、銚子電鉄の黒字決算を呼び込んだのは確かだ。

 銚子電鉄は現在、通勤・通学などによる定期利用者の比率が2割程度と低い。片道350円の運賃収入では、鉄道事業の年間1.2億円の損失を埋めることは不可能だろう。生き残るには、これまで進めてきた「日本一のエンタメ鉄道」戦略を強化する必要がありそうだ。

 6月30日、貸し切り運行の電車内で開かれた株主総会では、台湾・中華圏でのイベント集客に明るい女性取締役の招聘を発表するなど新たな動きもあった。銚子市は台湾・桃園市と、銚子電鉄は台湾の鉄道である「蘇澳線」と提携してもいる。成田国際空港の50km圏内という地の利を生かし、台湾をはじめアジアからの集客を増やしていきたいとのこと。そのためにも、何とか関係を修復した県や市と、さらに連携していく必要があるだろう。

 地方のローカル私鉄が軒並み苦境にあえぐ中、迷いなく助けを求めた銚子電鉄は、「ローカル鉄道界のファーストペンギン」ともいえる独特な立ち位置の獲得に成功した。23年7月5日に創業100周年を迎えた今、「米菓事業と鉄道事業を擁するエンターテインメント企業」にメタモルフォーゼ(変態)したといっても過言ではないだろう。「ぬれ煎餅を買って支援すれば、鉄道を通じて何か楽しませてくれる」といった期待感を、国内外のファンに抱かせられるのが強みだ。

 ただし、各地のローカル鉄道が2匹目、3匹目のペンギンとして、安易にこの手法に頼ることには疑問だ。銚子電鉄も「それって、鉄道会社としてどうなの?」と思わないでもない。が、こんな風変わりな会社が1社や2社くらい、世の中にあってもいいのかもしれない。

鉄道会社なのに「お菓子の売り上げ8割」銚子電鉄が示す瀕死のローカル鉄道が生き残る道銚子電鉄の車両 Photo:PIXTA
鉄道会社なのに「お菓子の売り上げ8割」銚子電鉄が示す瀕死のローカル鉄道が生き残る道犬吠埼駅 Photo:PIXTA
鉄道会社なのに「お菓子の売り上げ8割」銚子電鉄が示す瀕死のローカル鉄道が生き残る道外川駅 Photo:PIXTA