千葉県のローカル私鉄、銚子電鉄が創業100周年を迎えた。経営危機を幾度も乗り越え、「奇跡のぬれ煎餅(せんべい)」ストーリーで勢いづく今、「本業と副業の逆転」「エンタメ化」を突き進められるだろうか。(乗り物ライター 宮武和多哉)
帝国データバンクでも分類
銚子電鉄の本業は「米菓製造業」!?
千葉県銚子市に本社を置く銚子電気鉄道(以下、銚子電鉄)が、2023年3月期の決算で純利益1196万円を確保し、2期連続の黒字決算となったことが分かった。
同社の“本業”はもちろん、銚子駅~外川駅間6.4kmの鉄道運営である。ところが近年は“副業”の「ぬれ煎餅」などの菓子製造・販売が絶好調。実は今期も、副業の売上高が過去最高の5億3148万円(うち8割が「ぬれ煎餅」)を記録し、事業単体で約1億円の利益を確保している。
一方、鉄道事業では1.2億円もの営業損失を出している。これに対しては県や市からの補助金と、雇用調整助成金(新型コロナウイルス関連の特例)で、何とか最終赤字を免れている状況だ。
23年3月期の決算に限らず、銚子電鉄は「売り上げの半分以上が副業」という状態が、なんともう四半世紀も続いているという。1995年に発売された「銚子電鉄のぬれ煎餅」が、発売後3年で鉄道事業の売り上げを超え、鉄道の危機を何度も救ってきた。
こうした状況から、同社の業種分類は、帝国データバンクで「米菓製造業」、東京商工リサーチでも「ビスケット類・干菓子製造業」に分類されている。信用調査の上でも、同社が「本業が煎餅屋、副業が鉄道」と判断されているのだ。
本来の本業であるはずの鉄道事業は、もはや立て直しが難しい状況だ。昭和30年代に年間250万人以上だった利用者数は、今では30万人以下に激減し、輸送密度(1km当たりの1日平均旅客輸送人員)は「593」(2019年度)。JR各社が廃線を検討する基準を大幅に下回っている。50年までに沿線人口の半減が予想されるなど、鉄道の未来をポジティブに判断できる要素は、皆無に等しい。
普通の経営者なら、ここで米菓事業への専念を考えるか、運転本数や人員の削減でコストを削りにかかるだろう。しかし、同社の鉄道路線は今でも1日30便以上(1時間1~2便)の運行を確保し、多客時には増便を行うなど、鉄道会社としての体を保っている。銚子電鉄はなぜ、ここまでして鉄道事業にこだわり続けるのだろうか。