銚子電鉄はなぜそこまで困窮していた?
「奇跡のぬれ煎餅」ストーリー

 銚子電鉄のぬれ煎餅が全国に知れ渡ったのは06年。長年の資金難に緊急の設備改修が重なり、同社の預金通帳の残高が200万円にまで減ったときのことだ。

 資金ショートが目の前に迫り、社長と労総組合委員長が連名で「緊急告知 電車運行維持のために『ぬれ煎餅』を買ってください」「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」(原文ママ)という切実なメッセージをホームページに掲載した。すると、たちまち話題となり、オンラインショップに注文が殺到。ぬれ煎餅の売り上げが急増し、鉄道の廃止危機を救ったのだった。

 そして、そのエピソードを「奇跡のぬれ煎餅」としてホームページに掲載したところ、ただの菓子ではなく「鉄道を救った」というストーリーから、一種の「縁起もの商品」として人々が買い求めるように。こうして銚子電鉄は今や、地域の交通インフラというよりも「ぬれ煎餅に救われた電車」を売りにした「地域の観光資源」として重要なポジションを築いている。

 まさに、ぬれ煎餅あっての銚子電鉄、銚子電鉄あってのぬれ煎餅。両者は車両の両輪で、どちらかが欠けては傾いてしまう。だから、鉄道事業をおろそかにはできないのだ。

 ただ、そもそも06年の経営危機は、前経営者の不祥事が原因でもあり、同情せざるを得ない点があった。銚子電鉄は1990年に地元工務店に経営が移ると、そのオーナーが、各所から電鉄名義で借金を重ねて、首が回らなくなっていた。

 なお、一連の不祥事の前後で銚子電鉄に対する県や市からの補助金は打ち切られており、そのオーナーは2004年に銚子電鉄社長の職を解かれた上で、後に横領容疑で逮捕されている。鉄道路線としての末期症状だけでなく、「前経営者が、県や市、金融機関との関係をことごとく損ねた」という状況があったからこそ、「買ってください」という悲痛なメッセージが、リアリティーをもってネット上で拡散されたというわけだ。