そこで見えてきたこととして、たとえば「油不使用」という稲庭うどん独自の製法がありました。手延べうどんや素麺を生産している乾麺の大手メーカーの多くは、基本的に油を使って麺を伸ばしていく製法を採用しています。稲庭うどんの場合は、油を使わず、熟成の回数を増やしていくことによって自然に粘度を高め、それを吊るしながら伸ばしていきます。

 この製法は稲庭うどんとしては一般的なものですが、これまで業界として訴求してこなかったもので、ディスカッションの中で気づきがありました。

 食品の場合であれば、この「油不使用」のように、他社がやっていない製法が差別化のポイントになります。とりわけ、いまのように健康志向の強い時代には、製法にヘルシーなイメージがあったら、それをしっかり言語化して表記することが差別化につながっていくのです。

言葉とデザインを融合させる

 稲庭うどん小川さんの新しいパッケージについては、「お客様に何をどう伝えたいのか」「自分たちが理解した方向性をどう可視化していくのか」という視点から、ブランドコンセプトとの整合性を考えて、私たちの側でパッケージ案をつくっていきました。

 ポイントとして、差別化の要素「油を使っていない」を可視化するために言葉をパッケージに入れました。また、分析を進めていくと、他社が4回ほど熟成させているところ、稲庭うどん小川さんは「五段熟成」といって熟成回数が多い特徴があったことがわかり、それも言葉としてパッケージに入れました。

 大学の研究機関から「熟成を繰り返すことによって、麺の中に気泡が生じ、その気泡がゆで上がりの時間を短縮し、歯ごたえやコシを生み出す」という報告があったので、美しい泡を意味する「美泡」という言葉をつくり、独自の製造方法をプラスイメージのメッセージとして打ち出していきました。

「無添加」「油不使用」「美味美泡麺」「五段熟成」という稲庭うどん小川さんのさまざまなこだわりを「判子」としてパッケージに刻印するというスタイルです。「小川」の文字は、麺が吊るされて干されている様子を模したイラストで表現し、中央のパターンは気泡を表現しています。このデザインは、日本パッケージデザイン大賞で入選作品に選ばれました。

ブランディングの秘訣は、自社の強みを言語化してデザインに落とし込むことさまざまなこだわりをパッケージに刻印し、差別化ポイントをアピール
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