車体整備業サイドは、その意味で保険会社に“恩を売る”側面があるものの、元々が下請け的な立場が長かった中で損保業界が主導するシステムに追従せざるを得ない状況もある。

 例えば「DRP(ダイレクト・リペア・プログラム)」という、損保会社がユーザーに対して修理工場を直接紹介する仕組みがある。

 具体的には損保が整備事業者に対して顧客を紹介する代わりに、修理に要した費用から一定額を差し引いた上で損保会社に請求するというものだ。それぞれの整備事業者が設定している工賃をレバーレートと呼んでいるが、DRPの仕組みが適用されるとその決定権は損保が握ることになる。

 また、損保業界の団体である日本損害保険協会に加盟する損保各社から委嘱を受け「保険事故」の損害調査業務を行う「アジャスター」登録制度があり、認定されたアジャスターが最終的な修理金額を決める重要な調整役を担っている。本来は不正の抑止が目的だが、整備事業者にとってはある意味で修理費用が損保会社に“握られている”ということでもある。

 このような形で、昨今の整備業界と損保会社は、お互いに影響を与え合う密接な関係性が築かれている。

 しかし、ビッグモーター不正問題で明らかな通り、同社と損保各社の必要以上に密接な関係には厳しい目が向けられている。

 特に、SOMPO傘下の損害保険ジャパンはかつてビッグモーターの第2位株主であったほか、オーナーの息子の前副社長がビッグモーター入りする前に損保ジャパンの前身の一つである日本興亜に入社し“修業”していたこともあり、こうした状況が、密接を通り越して「もたれ合い」の温床になっていたとの見方が強い。

ビッグモーターの不正問題に透ける
「顧客不在」の経営

 ビッグモーターの不正問題で明らかになったことは、事は自動車販売・整備業界全体の構造的問題であり、市場が成熟化し今後収縮していくにもかかわらず「顧客不在」の経営に陥っているという点である。

 ビッグモーター自体は、急成長を遂げた創業者オーナーの専横経営が悪質な不正行為をまん延させたということに尽きる。

 少なくとも筆者が現役記者として中古車業界を取材していた頃、ビッグモーターは名前すら聞いたことがなかった。山口県岩国市で創業してから九州・四国で店舗展開していたが、関西の中古車販売老舗の「ハナテン」に資本参加し13年秋にハナテンの直営店をビッグモーターに転換したことが全国展開に結び付いた。

 実質、この10年で急成長を遂げ中古車販売大手にのし上がったビッグモーターだけに創業社長は「やり手」だったのは確かだと思うが、そのために無理な拡大策につながったのだろう。