保険ラボ

ビッグモータ問題が大炎上
損保会社との蜜月関係

 7月25日、中古車販売大手のビッグモーターが自動車保険金を不正に水増し請求していた問題で、記者会見を開いた。兼重宏行社長(当時)が一連の問題について謝罪したのに加え、兼重氏とその長男である兼重宏一副社長(当時)の両名が、同26日付で責任を取って辞任すると発表した。

ビッグモータービッグモーターの謝罪会見の様子 Photo:JIJI

 2時間超にわたる会見では、兼重前社長の度重なる違和感のある発言に、ビッグモーターの企業体質について、さらに疑念は深まるばかりだった。

 ゴルフボールを靴下に入れて車体を傷つけたことに対して「ゴルフを愛する人への冒涜だ」や、一連の不正行為については「板金塗装部門が単独で行ったこと。天地神明に誓って知らなかった」などだ。また、不正に関与した社員に対して「刑事告訴を検討している」との発言は、後に撤回したとはいえ、自らが加害者であることを認識していないことの証左といえる。

 従業員らが不正を働いた背景には、苛烈な信賞必罰があったことは明らかだ。業績を上げれば年収4000万円を手にできることもある一方で、工場長から平社員に一気に降格されてしまうような制度では、不正に手を染めてでも業績を上げようとする従業員がいても不思議ではない。そうした企業を作り上げたのは、創業者である兼重前社長である。

 そうした中で浮き彫りになったのは、ビッグモーターと損害保険会社との蜜月関係だ。

 保険代理店でもあるビッグモーターは自動車保険を販売するだけでなく、国の強制保険である自賠責(自動車損害賠償責任保険)を損保会社に割り振っている。自賠責保険はノーロス・ノープロフィットという原則のもと、利益も損失も出ない仕組みになっているが、保険料を構成する「付加保険料」と呼ばれる保険会社の経費部分に関しては、実はうまみが存在する。

 通常、損保会社は営業戦略上、付加保険料を削る努力をするが、国が決めた一律の保険料である自賠責にはその必要がない。故に、他の保険種目や間接部門の経費を自賠責の付加保険料に寄せることで、経費コントロールができるのだ。事業比率が低い大手損保であれば、実際の経費と自賠責の付加保険料との差異が大きいため、自賠責の件数が多ければ多いほど、さまざまな経費を回収してくれるファンドが大きくなるというわけだ。

 そこで、ビッグモーターのような板金工場を持つ中古車販売店に対しては、保険契約者が事故を起こした際にビッグモーターを紹介(誘導)することで板金塗装部門の売り上げに貢献し、より多くの自賠責を割り振ってもらおうという競争が損保各社間で発生する。

 そうした競争環境下において、損害保険ジャパンによる事故車の誘導について疑義が生じている。昨年夏、ビッグモーターの保険金の不正請求が問題になった際、損保ジャパンと東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険の大手3社が事故車の誘導を止めたが、損保ジャパンだけがすぐに事故車の誘導を再開したからだ。

 しかも、その後新たに不正が発覚したことで、損保ジャパンは再び事故車の誘導をストップする事態に追い込まれている。何より、損保ジャパンの出向者が「上司の指示で不正が行われていた」と聞きながらも、最終的なビッグモーターの報告書には「作業ミス」とあったため再開に至ったのだ。どちらを信用するか難しい判断だったかもしれないが、結果的に再び事故車の誘導をストップしたことから、再開に至った判断は甘かったと言わざるを得ない。

 こうした事態からビッグモーターだけでなく、現在は損保ジャパンも集中砲火を浴びている状態だ。だが、ダイヤモンド編集部が入手した、2019年度から22年度までの損保大手各社のビッグモーターへの事故車の入庫誘導の台数推移と、自賠責のシェア推移を見ると、また違った景色が見えてくる。

 しかも、ビッグモーターが凋落した今、損保各社は別の中古車販売店に群がり始めてもいる。次ページでは、そのデータとともに損保各社の動きを見ていこう。