サッカー選手を目指しブラジル留学→一転ホームレス生活を経験した男性が「体育会系」から足を洗うまで写真はイメージです Photo:PIXTA

ミドル世代の男性でも「自分らしさ」「生きづらさ」に悩むときがあるだろう。その原因のひとつに「男らしさ」という強固な価値観があるともいわれるが、そんな「男らしさ」の実態と脱却法を『男尊女卑依存症社会』(亜紀書房)の著者で精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏に聞いた。(清談社 沼澤典史)

朝まで飲んで出社は
「男らしさ」の表れ?

 ほとんどの男性は「男らしくない」「男だろ」という言葉をかけたり、かけられたりした経験があるだろう。それによって、奮起する人、もやもやしてしまう人などさまざまだが、斉藤氏は日本に存在する「男らしさ」という価値観は、生きづらさやストレス、さらには他人への加害行動につながり得ると語る。

「そもそも日本には男尊女卑の価値観が根強くあります。それは賃金格差から始まり某医大の入試問題、政治家の男女比率や毎年発表されるジェンダーギャップ指数などを見ても明らかです。ただ、こうした男尊女卑の価値観に基づいた『男らしさ』や『女らしさ』という社会から要請されたジェンダー規範に過剰に適応しようとするあまり、しんどさや生きづらさを抱えている人は、男女ともに多い。特に『男らしさ』については、基本的に気合と根性でもって、弱音を吐かずに歯を食いしばり、過労死ギリギリラインで働きながら家族を養う経済力を持ち、心身ともにマッチョであれ、というような価値観が社会の隅々まで染み込んでいます」

 斉藤氏によれば、こうした男らしさの証明には「達成」と「逸脱」という二つの行動原理があり、意識的か否かは別として、多くの男性が内面化し、実践しているという。

「達成とは、社会的に価値のあることを成し遂げる、もしくは周りとの競争に勝つことです。部活で全国大会に行く、偏差値の高い一流大学に入る、さらに一流企業に就職、出世するなどが当てはまります。一方、逸脱とは、規範をわざと破り、ルールにとらわれないヤンチャさで、男らしさを証明することです。逸脱の典型例は不良ですね。社会人であれば、次の日、仕事があるにもかかわらず朝まで飲む、みたいなことも逸脱行為とみられます。『朝まで飲んで、きちんと朝には会社に行く』というケースは逸脱と達成のハイブリットともいえますが、日本のサラリーマンにはこのような行動を是としている人も多く、武勇伝として語られがちです。この達成と逸脱のハイブリットこそが真の男らしさだと常々評価されてきました」

精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏

 男性は、知らず知らずのうちに、こうした男らしさに基づいた行動をしてしまっているということなのだ。こうした有害な男らしさに根ざした価値観は、心身ともに過剰な負担がかかってしまうことがある。

 仕事(出世、成功)に重きを置きすぎるあまり、ワーカホリックになり、そのストレスを解消しようと、アルコール、薬物、ギャンブル、性などに依存してしまう人を、斉藤氏は依存症の臨床現場で数え切れないほど見てきたという。