自治体から交付されている補助金などの支援、教育研究上の連携、自治体から異動してくる職員の比率など、首長の考え方一つで状況が一変するような要素が少なくありません。大学受験の仕組みでは括られることも多い「国公立」ですが、組織を動かすガバナンスは、両者でかなり違います。

 このように職員として働くことを考えた場合、大学はいろいろとややこしい職場です。「とりあえず売上さえガンガン上げていれば誰も文句は言えまい」といった単純明快な組織でないことは確かです。

 ただ、このややこしさにもそれぞれ理由があります。法人部門と教学部門が分かれていることも、教員と職員が異なる論理で動いていることも、文科省や地方自治体から影響を常に受けていることも、それぞれ意味があるからこそ現在のような姿になっているわけです。

 それぞれの意見や要望を尊重しつつ、現場の事情に合わせて最適な納得解や解決策を練り上げていく姿勢やスキルは、職員に求められる資質の一つでしょう。

 なおサテライトキャンパスよりも本部キャンパス、個々の大学よりも文科省など、ガバナンス的にはより「上位」とされる組織が仮にあったとして、実際に起きている問題に気づくのは往々にして現場の方々です。

 学生の変化に最初に気づくのが、新入生に入学ガイダンスをしている若手職員なんてのもよくあること。学内規定が制度疲労を起こしていることを知っているのも、実際に細かな手続きをしている各部署の課員たちだったりします。

 上から下に指示を下ろすだけではなく、下から上に気づきや提案を上げられる組織は強い。ここもまた、職員に期待されるところです。

書影『大学職員のリアル-18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』(中公新書ラクレ)『大学職員のリアル-18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』(中公新書ラクレ)
倉部史記 著、若林杏樹 マンガ

 原理原則としては個別対応を避け、正式な議論や手続きを経て物事を動かすことが大切ですが、その「正式なプロセス」にもやはりキーパーソンはいるものです。そうした際、「誰の意見を尊重することが、取り組みをつつがなく進める上で重要なのか?」という判断が必要になることも。

 学科間で教員の意見が対立しているが、これについてはA先生に間に入ってもらえばうまく収まるはず。この取り組みに関しては理事会でOKをもらうためにB理事に話を通しておこう。C学科の模擬授業は学科に正式に依頼を行う前に、話のうまいD先生に直接、依頼をしに行ったほうが良い結果が出る……等々。

 そうした先回りが成果に関わる場面も実態としてはあります。その意味では、問題解決という目的のためにガバナンスの仕組みを活用できるしたたかさも、ときに必要なのかもしれません。