昨今のウェブ上では、「大学職員は給与が高い。年収1000万以上で仕事も楽」といった声が飛び交い、魅力的な職場として認知されつつある。だが、職員と教員は、それぞれが異なるガバナンスの中で業務に就いており、多くの職員が日々悩みにぶつかっている。本稿は『大学職員のリアル-18歳人口激減で「人気職」はどうなる?』(中公新書ラクレ)の一部を抜粋・編集したものです。
大学職員は理事長の指揮下にあるが
教授たちの「要望」には逆らえない
大学を取り巻くガバナンスは、少々複雑です。私大を経営する学校法人を例に挙げましょう。
経営に関わる最高意思決定機関は理事会であり、実質的な経営トップは理事長。重要事項を決定する場合は、評議員によって構成される評議員会の意見を聞くことなどが私立学校法で定められています。
このあたりは、企業の取締役会に似たところがあります。こうした法人全体のマネジメントを司る組織があり、そのもとで大学や附属高校などの学校が経営されています。
学校法人に職員として採用された場合、法人部門に配属されれば、理事長を頂点とするピラミッド型の組織で、企業の社員に近い働き方をすることになります。
教学部門に配属された場合はどうでしょうか。法人全体のトップはもちろん理事長なのですが、そこに大学組織のガバナンスも関わってきます。
一般的に大学の代表者、最高責任者とされているのは「学長」。学校教育法にも「学長は、校務をつかさどり、所属職員を統督する」と定められています。学長のもと、教員や職員が協力し合って教育や研究を行っているわけです。
そして教員と職員は、それぞれが異なるガバナンスの中で業務に就いています。
教学部門で働く職員は、基本的には上意下達のピラミッド型組織で動いています。企業と同様、部長、課長、係長といった職階も存在します。しかし教員のほうは違います。学長、副学長、学部長、学科長といった役職はあっても、職員サイドにおける職階とは意味合いが異なります。教授や准教授、講師、助教など、組織内での職務や待遇には違いはありますが、それぞれが独立した研究者であり、別に准教授は教授の部下ではありません。
教学部門で働く職員にとって、もちろん学長や副学長はマネジメント責任者ですから、間違いなく上司です。また教務部長や学生支援センター長といった部門トップの役職に教員が任期制で就くことは多く、そうしたケースでは名実ともに上司となります。ただ、こうした事例を除けば、「教員は職員に指示命令する権利がある」なんてことはありません。
もちろん大学の教育研究の柱は言うまでもなく教員であり、多くの大学職員は教員を「先生」と呼んで、大学の中核として下にも置かない接し方をしているはずです。職員の役割はあくまでも教育や研究の「支援」であり、そこに関わる重要な決定事項においては教員に指示を仰ぐべきだと考える方は多いでしょう。ただしそれでも、上司ではないのです。